ドラマ版『この世界の片隅に』
2018年7月15日に始まった新ドラマ『この世界の片隅に』
見た人は分かるかと思いますが、驚異の朝ドラテイスト。これは夜に見る朝ドラだ。脚本も『ひよっこ』の岡田惠和だし、俳優陣も朝ドラ経験者ばかり。放映前から『この世界の片隅に』の朝ドラ化は予測されていた。
具体的にはどこが変わったのか。
原作・アニメ版との変更点
目立った変更点があったのは
- 兄・要一や周作とすずの関係
- 現代パートの追加
- 周作を想う謎の少女の出現
の3点だった。それぞれ見ていこう。
要一とすずの関係が変化
原作での要一には、あまり良い印象が無い。主人公であるすずは兄のことが嫌いであり、その視点から物語が語られているので、気づけば自分も要一が嫌いになっていた。
出征や戦死に対する複雑な心境をすずに抱かせる、舞台装置として機能している。暴力的な兄という役割を最後まで守り続ける、一面的なキャラクターである。本当に良いとこ無しだ。
対してドラマ版では、不器用な兄と優しい妹という朝ドラ的な関係性へと変化している。憧れの人物を亡くし苦しむ要一と、元気づけるために自ら殴られるすず。ハートウォーミングである。そこには「鬼いちゃんが死んで 良かったと思ってしまっている」妹の姿はない。
恐らく要一の死は、戦争ドラマでよくあるお涙頂戴モノへと変更されているのだろう。日曜の9時から全国で放送されるドラマで、身内の死を喜んではいけないということだ。
すずの聖人化が目立つ。アニメ版『この世界の片隅に』の好評を受けてか、等身大の人物としての彼女は失われているのかもしれない。
周作とすずのなれそめ
原作・アニメ版では周作とすずの出会いはあまり語られない。すずの幼少期で、妄想と入り混じった思い出として登場するのみである。
しかしドラマ版では二人して人さらいに遭い、協力して脱出するという劇的な展開になる。(もちろん原作でも同様の経験があり、すずが脚色していた可能性はある。)
そのためか新婚初夜の場面が情熱的になっており、すずが北條家に嫁ぐ必然性が補強されている。周作を松坂桃李が演じているため、視聴率アップを狙ったシーンなのだろう。日曜の9時からこんな場面を流していいのか…。
「仕方なく」結婚した関係の二人に、誘拐に遭った思い出というワンクッションを置くことで、周作への批判を回避しようとしているのかもしれない。
現代パートの追加
榮倉奈々と古舘佑太郎(古舘伊知郎の息子)が現代の北条家跡地を訪れるシーンが、1話の最初と最後に加えられた。タイムスリップを頻繁に登場させる朝ドラ的手法だ。現代と過去をつなぐことで、視聴者に親近感を抱かせるワザらしい。
しかし『この世界の片隅に』のテーマは戦時下の日常であり、誰もがなり得た存在として北條すずが登場してくることは、大きな魅力であった。原作にはもう一人の北條すずと言える存在が何人も登場する。彼女たちの姿で、当時の銃後の人々を捉えようとしたのである。
個人としての北條すずをより具体的にすると、原作やアニメ版で組んできた流れに逆行する。特定個人として、また聖人としての北條すずは果たして必要なのか。
周作の恋愛模様が複雑に
すずが北条家へ嫁ぐシーンで、彼女を恨めしそうににらむ少女・刈谷幸子が登場した。ドラマ版のオリジナルキャラクターで、周作とは事情がありそうだ。
原作で三角関係だった周作の恋愛に、もう一人追加されたのである。一体このドラマはどこへ向かっているのか。朝ドラ的どたばたラブコメでもやろうというのだろうか。これについては謎が多いので、今後に期待である。
おわりに
原作とアニメ版が好きすぎて、変更点にいちゃもんをつける人になってしまった。まだ1話しか放映してないのに。すずを演じる松本穂香はハマり役だと思うので、今後の期待値は高い。不思議な雰囲気を纏った女優だ。
気になるのは原子爆弾が投下された8月6日までに、どれぐらい物語が進むのかということだ。大きく視聴率にも影響しそうな、現実とストーリーの時系列。というかこのドラマいつまでやるんだろう…。
日曜日の21時から放映中。ぜひ今後の展開を予想してみてください。それでは。