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【考察】本当は怖い『ちいかわ』の秘密と5つの裏設定

かわいくて癒される――そんなイメージだけでは語れない『ちいかわ』の奥深い世界観。裏設定に隠された厳しい現実と驚くべき秘密、そしてキャラクターたちの運命とは?物語の核心を考察する。

ちいかわの闇に迫る

ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ(1) (モーニングコミックス)

原作マンガを熱心に読んでいる人たちの間ではよく知られていることだが『ちいかわ』の世界には大きな闇がある。よくジブリの『となりのトトロ』で都市伝説的に語られるようなかなり飛躍した考察ではなく、作者のナガノさんが明確に闇を描きにいっている。そういった『ちいかわ』の裏設定を、マンガを元に確認していく。

ちいかわの世界に登場する三つの種族

ちいかわの世界には、大きく3つの主要な種族が登場する。

  • ちいかわ族(と仮に呼ぶ)
  • 鎧人
  • でかつよ(キメラ/モンスター)

である。

後に「おで」という同種が見つからない孤独な存在がでてきたり、セイレーンや人魚といった詳細不明の種族が出てきたりするが、メインはこの3種族である。


うさぎ、ハチワレやグレーのモブたちをふくむちいかわ族は、鎧人間たちが斡旋する仕事で生活しており、厳格な管理が行われている。

またモンスターは基本的にちいかわ族を襲ったり食べたりするが、中には友好型と呼ばれる危険性の低い個体もいるようだ。

実は厳しい世界!?

仕事のひとつにモンスターの討伐があり、ちいかわ族の間でもモンスターに襲われ体の一部を失ったり、命を落としたりする描写がある。またハチワレは洞窟に住んでいるのでモンスターに自宅を襲撃されることも。厳しい世界である。

明確に武器が出てきて、捕食者と戦わないといけない。しかも定期的に命が失われる厳しい仕事を、優しそうにも見える鎧人間たちが管理しているという、恐ろしい構造である。

裏設定①ちいかわ族はモンスター(キメラ)になる

明言されていないが、ちいかわ族はモンスター(でかつよ)に変化することがある。

ちいかわは「なんか小さくてかわいいやつ」、でかつよは「なんかでかくて強いやつ」の略で対象的な存在といえる。このちいかわ族のモンスター化は最初期から暗に示されてきた。

うさぎの手の一部がモンスター化してしまう悪夢をちいかわが見るのだが、マンガを通してみていくと、これが単なる悪夢とは思えなくなってくる。

モンスター化する条件①魔法などで体を交換する

ちいかわたちの体は何度か狙われてきた。これは「こういう風になりたいやつがいる」とっていた緑色の魔女(?)が示唆するように、魔女は体を入れ替えることが出来るということだ。この回では人形と入れ替わってしまっているが、モンスターと中身が入れ替わってしまったキャラクターも登場する。

でかつよとモモンガである。

念願の「ちいかわ」になれたモモンガは「なんかちいさくてかわいいやつ」としての人生を謳歌しようとするが、もともとモモンガだった人物がモンスター(でかつよ)に入れられており、追いかけ回される。

モモンガはもともとでかつよだった時の記憶からか、食糧難になった時にちいかわを食べようとした。だが種族が変わってしまっているからか旨みを感じなかったので、未遂に終わった。

モモンガとでかつよの入れ替えは魔女が行ったことがほぼ確定したエピソードも公開されている。

モンスター化する条件②変異

ちいかわの世界観の最大の闇。それがちいかわたちが怪物化してしまう可能性があるということだ。逆に言うと、ちいかわたちがモンスターに変異する前の過渡期の可能性もあると考えられるだろう。

変異例1:あのこ

ちいかわのシール貼りの仕事仲間だったピンクパジャマのモブキャラが、ある日いなくなる。

このいなくなる間の回で初登場したのが作中で「あのこ」とよばれる白いモンスターだ。

回想から「あのこ」がかつてピンク色のパジャマのモブキャラとして、辛い日々を送っていたことが暗に示されている。

またシール貼りの職場でカエルにお金を入れてお菓子を買っていた思い出から、カエルを指さしてちいかわに自分の存在を伝えようとする場面もある。

変異例2:喫茶店の店員

喫茶店の店員のモブキャラも突然、怪物に変異してしまった。

  • 2コマ目でエプロンを付けてジュースを運ぶモブが描かれる
  • 3コマ目でジュースが割れる音がする
  • 4コマ目で同じ色のエプロンを付けた怪物が店の中に出現する

という形で明言はされていないものの、丁寧に変異が描かれている。

『ちいかわ』の世界ではスーパーアルバイターという難しい資格を取り、こういった店で鎧人間の助手として働くことが出来る。この変異事件がきっかけとなり、スーパーアルバイターの制度がなくなるという話が出てくる。恐らくスーパーアルバイターだったモブが変異してしまったのだろう。

このエピソードからは、変異には何らかの素質が絡むということが分かる。そして勉強家や努力家であるということが、「ちいかわ族」が「でかつよ」になってしまう要因になる可能性が示されているようにも感じる。だから鎧人間としては、「でかつよ」に変異してしまうリスクを減らすため、スーパーアルバイターの制度自体を廃止するという方針が打ち出されたのかもしれない。

変異例3:キメラ

また最初期にもキメラというタイトルでこのような漫画が投稿されており、明確に怪物になってしまうことが示されていた。

変異例4:ハチワレ

ちいかわファンに2024年、最大の衝撃を与えたと思われるのが、人気キャラであるハチワレの変異(怪物化)である。

パラレルワールドでの出来事だったため、元に戻ることが出来たが、あやうく別世界のちいかわと戦闘になるところだった。ハチワレですら自分が強い状態にあるという快楽におぼれ、言動や考え方までモンスター化してしまう。向上心や努力が、弱者(ちいかわ族)を攻撃する怪物を生んでしまうという悲劇は、現実世界でも見られる構図ではないだろうか。

変異の条件

変異の条件は現状不明だが、あのこは突然変わってしまったらしい。

この回は「でかつよ」の人生を楽しんでいるものと、「ちいかわ」にもどりたいものの強烈な対比が描かれる。またあのこがモブキャラを食べてしまったように、「でかつよ」でいることで、徐々に理性が失われ怪物化していってしまう可能性を芋虫のようなキャラが示している。

モンスター化する条件③呪い

呪いの力でモンスター化してしまったこともある。ただ、これは他のでかつよなどよりかなり大きな姿になっていて、②の変異のようなちいかわ族に備わった能力ではなく、例外的な力の可能性が高い。

裏設定②モブキャラたちが命を落としている

間接的に死が描かれたのが「あのこ」の回。

あのこがダンスを踊っていたので、友達になれるのではないかと思った1本角のモブキャラが、他のふたりに友好的に接しよう!(=てぃは!!)提案し、1人が乗ってくる。

あのこは気ままなので、最初は一緒に遊んだが、突然2人におそいかかった。反対していた1人も仲間を守るために号泣しながら立ち向かう。

この時、あのこは過去の弱かった自分を回想している(5コマ目)。またよくみると鳥が同じアングルで6〜7コマ目に飛んでおり、わずかな時間で命が失われたという、ちいかわ属の命の軽さも表現されているように思う。

考え得る中で最も残酷な結末。仲間の死につながる提案をした1本角のモブキャラだけが生き残り、他のふたりは(おそらく)命を落とした。後悔の念が心を苦しめ、かれは慟哭する。

裏設定③食べ物が湧く仕組み

ちいかわの世界では様々な場所で食べ物が湧いている。こういった食べ物が湧かなくなり、食糧難に陥ってしまうエピソードは、どういう仕組みで食べ物が湧いているのかを暗に示している。

はじめて「あのこ」がちいかわ族を食べたのは2022/5/26の回(さきほどの3人中2人が食べられた回と空や鳥のアングルが同じなので、このシーンが捕食を表していると考えられる)。Xの投稿文がぶどうマークなのが闇ぶかい…。

このときちいかわの世界は様々な場所で食料が湧かなくなり、ちいかわ族が仕事を求めて殺到する飢饉の真っ最中だった。そして2022/5/28の捕食直後の更新

突然メロンパンが湧き始めて、食糧難が解決する。このモチーフは何度も繰り返されていて、先程書いた3人組のうち2人が食べられる回では、直後に椎茸の軸とどら焼きが湧く。

ちいかわ族の死と食べ物の出現が連続していて、奇妙な食物連鎖によりちいかわ族の個体数が増えすぎないような仕組みになっているようにも思える。この後も、「あのこ」がちいかわ族を食べる回の後にホイップクリームが湧くなどモチーフが繰り返される。

裏設定④モブキャラにもそれぞれ姿や顔がある

ちいかわ族には、多数のモブキャラがいる。ちいかわたちと同じような姿をしたグレーのキャラクターたちだ。その他大勢とも言うべき彼らだが、物語の都合上グレーに描かれているだけで、実際にはちいかわたちと同じような顔や姿をしているようだ。

その裏設定は初期から登場していた「古本屋」に姿が与えられたことで明らかになった。

モモンガと古本屋が親交を深めていき、
カニの飾りを頭に着けた時、モブキャラではなくなり、姿が与えられた。

そしてこれは、『ちいかわ』の読者に残酷な示唆を与える。いままで死んでいったモブキャラクターたちにもし姿があたえられていたら、もっと読んでいる側の悲しみが大きかったのではないか。モブキャラクターたちにも人生があり、人間関係があり、感情がある。そういったことにあえて気づかせることで、その後犠牲になるモブキャラクターへの感情移入も大きくなってしまうように感じる。

裏設定⑤話せるちいかわ族と話せないちいかわ族がいる

ハチワレをはじめとして言葉を話せるちいかわ族を中心に話が進んでいくので分かりづらいが、「うさぎ」「古本屋」「あのこ」などは人の言葉を話さない。またちいかわも「イヤッ」くらいしか話していない。

この話せるキャラクターと話せないキャラクターがいることが、どのように物語に影響してくるのかは今後の注目ポイントだ。

まとめ

ちいかわの世界で描かれてきた暗い物語と、キャラクターたちのかわいらしい見た目にはギャップがあり、それらが原動力となった部分もあって、当初ちいかわは流行した。一方で、流行後のちいかわの受け止められ方は、そういった負の側面をなるべく表に出さないようなグッズ展開などが行われてきたように感じる。マルイにあるちいかわらんどの壁に、モブキャラクターの慟哭が描かれることはないだろう

だが、ちいかわ人気が爆発した2024年に、作者のナガノさんが描いた物語は、ちいかわでも屈指の暗い物語であるパラレルワールド編と島編(セイレーン回)だった。グッズから入って、リアルタイムで連載されているちいかわを目撃した人たちの衝撃ははかりしれない。

ちいかわは可愛い。だが作品としての『ちいかわ』は弱者救済の物語ではない。描かれるのは不和や、共に歩んでいけない現実、わずかな幸せとたくさんの不幸である。この物語はいったい何を描こうとしているのか。そして社会現象となったちいかわが、こういった物語であることの意味とは。それらを引き続き考察していきたいと考えている。

ちなみにちいかわのコミックス版には書き下ろしの短編が掲載されておハチワレが洞窟に住んでいる理由や、栗まんじゅう先輩の過去が明らかになる。要チェック。