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【考察】知ればつらくなる『天国大魔境』のヒルコの正体【6巻まで】

『天国大魔境』第6巻までのネタバレを含む考察。非常につらい内容になるので、心して読んでほしい。

【ネタバレ注意】トキオの物語とマルの物語の関係-時系列

『天国大魔境』にはいくつかの謎があるが、読者が最初に直面するのが施設で暮らすトキオたち(天国編)と、荒廃した日本で暮らすマルたちのパート(魔境編)の関係性だ。どういうつながりがあるのか分からず、トキオとマルの顔が似ているというヒントだけが与えられる。

2つのパートを繋ぐのは、高原学園のマークだ。キルコの銃、宇佐美医師が残したボタン、様々な場面で目撃される段ボール。二つはどうやら同じ世界にあるらしい。

天国大魔境(6) (アフタヌーンコミックス)

第6巻では施設が攻撃され、表紙の4人がついに施設の外に出る。その時の効果音は「ミーンミーン」(p.155)であることから、季節は夏だ。なおマルたちのパートの季節は4巻p.162より冬の終わりということが分かるため、時間軸が異なることが分かる。

1巻のp.22で予知能力のあるミミヒメが「外からふたりの人が僕をたすけにきてくれるの そのひとりの顔が トキオにそっくりなんだ」と言い、その後マルの顔が初めて登場する。二つのパートの時系列が同じで、マルはミミヒメを救うために「天国」である施設を目指しているのではないかと、読者に錯覚させる仕掛けになっている。

マルが施設に到達して、ミミヒメを外の外へ連れていくのかと思いきや、6巻では施設は空から落ちてきた何らかの攻撃で壁が崩壊し、ミミヒメは偶然外の外に出てしまう(ちなみにミミヒメは空から何かが落ちてくると1巻p.163で予言しており、的中していることが分かる)

キーアイテム:高原学園のボタン

ここで別のアイテムから時系列の謎を解き明かしてみよう。

↑担当編集が示しているようにボタンのマークは1巻1話から登場する。

第6巻p.182では、シロに助けられたミミヒメが自分のボタン(高原学園のマークが入っている)を渡す。二人の心が通じ合い始める名シーンだが、実はこのボタン、他の場面でも登場したことを覚えているだろうか。

不滅教団の宇佐美医師がマルに星尾を「救われた」あと、自殺するシーンである。宇佐美は死んだ星尾を抱きながら、高原学園のボタンを握りしめていた。

ここからシロが宇佐美であり、ミミヒメが星尾(包帯で巻かれている女)ではないかと推理できる

シロ=宇佐美、ミミヒメ=星尾

宇佐美は自らは医師ではないと言っており、義手等の精密な機械を作る技術を持っていることが分かる。そして各コミックスの巻頭に付けられているとおり、シロは「緻密な機械工作」が得意な人物として紹介が書かれているのだ。

また星尾はマルのヒルコ(怪物)を殺す技「マルタッチ」で死を迎えるが、6巻では施設の子供たちが「ヒルコ」と呼ばれていることがわかる。宇佐美の話では星尾(ミミヒメ)は、機械を止めれば怪物になってしまうという。

施設の子供たちが将来的に怪物・人食いになってしまうのではないかということが、ここから推測される。

第6巻p.155、施設から初めて出たミミヒメが空の青さに感動する。この感動は、延命措置を受けているミミヒメが死ぬ前に空を見たがるシーンと接続する。そして第6巻p.180シロはミミヒメへの愛の告白の中で、「僕の体が何回切り刻まれてもかまわないんだ…」と告げるが、その後シロがミミヒメを人として延命させるために、その体を切り刻むことになってしまう悲劇。

シロとミミヒメをめぐる伏線

この会話は2巻p.180でも「僕を食べたいの?(省略)じゃあ切ったり針で刺したりは?」「そんな事しないよ!!」という形で繰り返されている。後に明かされるようにミミヒメが先端恐怖症で針が怖いことも、その後シロがミミヒメの体を切らなくてはいけないことも、全てこの何気ない会話が伏線になっていた。

第3巻p.161の第19話「不滅教団②」の扉絵はシロとミミヒメの二人が描かれている。この二人の未来像が不滅教団編で明かされることを暗に示していた。そして第1巻第1話でミミヒメが言った予言。「僕が外に出たいなー…と思っていると外からふたりの人が僕をたすけに来てくれるの そのひとりの顔がトキオにそっくりなんだ」というセリフは、マルとキルコが自分の命を終わらせてくれることを読み取っていたのだ。

第4巻のp.96、ミミヒメは暗くて怖い場所を一人で歩く夢を見る。夢の中で誰かがやってきて、嬉しそうに「来てくれたんだ…」という。このシーンも、宇佐美の後追い自殺を示しているといえるだろう。

なお宇佐美は左腕に傷があるのだが(4巻p.61)、シロは6巻でミミヒメをかばった際に同じ場所に傷を受けている。また宇佐美となったシロの左目が無い理由は、ミミヒメに移植したからだと思われる。そう思えば彼女の最期の言葉に、「目をくれてありがとう」と入っていた理由がわかる。ミミヒメの願いは「最後にこの目で空が見たい」というものだった。「この目で」というフレーズにはミミヒメからシロへの気持ちが込められている。

ヒルコ=施設の子供たち

魚のヒルコの正体

天国大魔境(2) (アフタヌーンコミックス)

もしミミヒメがかかった病気を他の子供たちも発症していたら、施設の子供たちはヒルコになっていてもおかしくない。ここで第2巻に戻ろう。

第10話~第11話は「クク」というカエルっぽい能力をもった施設の女の子がタイトルに付けられている、「クク①」の扉絵はクク自身だが、「クク②」ではその変わり果てた姿が扉絵に描かれている。船でマルたちを襲った、手がたくさん生えた魚のようなヒルコである。同じ方向を向いており、同じ存在であることが示されている。

能力も非常に似ているが、実はククが人食いになってしまうことは第1巻で伏線が張られている。それはp.87でククがコナにもらった絵だ。手が生えた魚の絵が描かれており、コナにも未来予知能力があることがわかる(後にアスラがコナに、この能力が全員に備わっていることを伝えていたことが判明する)。

不滅教団の地下のヒルコの正体

不滅教団の地下には、幻覚を見せるヒルコがいた。この能力は、第5巻に登場するサングラスの幼児・オーマの能力と酷似している。オーマは相手が怖いものを見せる能力を持っていた(ミミヒメは先端恐怖症であるようで、注射器のようなものに取り囲まれた)。

思い返せばキルコが人食いに幻覚をかけられた時には、①自分の銃が効かなくて、②そのまま手から食べられるという自分の過去のトラウマをなぞるような幻覚を見せられていることが分かる。

同じ能力であることから、不滅教団地下のヒルコはオーマであることが分かる。オーマはミミヒメを慕っていたため、何らかの事情で施設から逃げ延びた際に合流し、そこで化け物になってしまったのだろう。病気が進行すると化け物になることを宇佐美(シロ)が知っていたのも、オーマの例があったからだと推測できる。

またミミヒメが先端恐怖症なのは、自分が注射器を打たれ、メスで切り刻まれながら延命する未来を、無意識のうちに感じ取っていたからだと思われる。

壁の町のヒルコの正体

壁の町のヒルコは、冷気を操る能力だった。そのような能力を持った施設の子供は確認されていないが、11号の子供が何故かヒルコであったことが第5巻で明かされている。ヒルコの子供がヒルコとして生まれてくるとすれば、親である壁の町の女性カップルも同様にヒルコだったのではないだろうか。

壁の町での脱走に失敗し惨殺されたカップルだったが、星尾(ミミヒメ)の例から、ヒルコは不死の存在であり、マルタッチ以外では命を奪えないことが分かる(宇佐美がどれだけ手を尽くしても、ミミヒメを人の姿のまま死なせることが出来なかった)。この二人は第2巻p.100等でイチャイチャしているナナキとイワではないかと考えられる。作中に出てきた女性カップルはこの二組だけだからである。

壁の町のヒルコはナナキとイワだった。思えばこのヒルコは蜘蛛の姿をしており、二人分の手足の本数と同じ八本の足を持っている。

ホテル王の女の子の正体

第3巻に登場するホテル王になりたい女の子(トトリ)も、マルタッチが使えるためヒルコだったことがわかる。キルコ(春希)のセリフから、15年前に世界が崩壊し、13歳であるホテル王の女の子は大災害後に生まれた子供だとわかる。

彼女も大災害後に施設から抜け出した子供たちの間で生まれた娘だとすれば、年齢のつじつまはあう。

そして親はタカ(運動能力が高い子)とアンズ(踊りが得意な子)であることが示されている。それは第2巻のp.99ページの扉絵。トトリと題された回の扉絵に二人の姿が描かれているのだ。タカとアンズの子供がホテル王(トトリ)であることが分かる。

思い返せば、第6巻で施設から真っ先に抜け出したのが、ミミヒメ・シロのペアと、タカ・アンズのペアであり、彼らのその後が今後描かれていく可能性は高い。

キルコが探している医者の正体

医者の正体は、トキオパートに登場する研究員・猿渡である。第5巻p.130では猿渡と延長が「脳移植」の話をしており、キルコが姉の体に入ってしまった手術を思わせる。また決定的なのは第6巻p.134で、施設への攻撃により左側の眉の上を怪我するシーンだ。キルコの回想では、医者には同じ個所に大きな傷があり、同一人物であることが示されている。

マルの正体

天国大魔境(4) (アフタヌーンコミックス)

いまだにマルがなぜヒルコを殺せるのかは明らかにされていない。

しかし、名前の由来は既に推理できる。第6巻で額を怪我した猿渡は、その衝撃で二人の子供を落としてしまう。そして片方の子供の足の裏にはマルを付けるのだ。トキオに返されなかった〇印を付けられていた子が、マルだと思われる

そしてこの時子供が二人いることに対して「トキオくんの子…双子だったんですか!?」と聞かれた際、青島は「まぁそんな所です」と妙な言葉の濁し方をしている。

園長がトキオの子に脳移植を目論んでいたことを思えば、この時のもう一人の子供は替え玉である可能性が高い。偽の子をトキオに返し、本物の子は自分たちの手で育てるつもりだった可能性がある。

マルの顔はトキオに似ているが、能力は全く異なっている(トキオはステルス能力、マルは高い身体能力とマルタッチ)。この点については今後明かされていくだろう。

トキオたちの物語はマルたちの物語の15年前

宇佐美と星尾のエピソードから、トキオたちの物語(天国編)とマルたちの物語(魔境編)には大きな時間的な隔たりがあることがわかる。トキオたちのいる施設の中では、青島が通常通り自販機で飲み物を買っており(5巻)、大災害が起こる前の日本だと推測できるのである。

マルは大災害の年に生まれた子供だと言っている(3巻1話)ため、トキオたちの物語は大災害の起こる直前を描いている可能性が高い

その他の推理できること

  • 6巻p.74でミミヒメはコナの姿が化物に見える。これはコナが将来的に人食いになってしまうことを示している。
  • 6巻p.114~115で施設の子供たちが全員集合するが、p.115の左側にマルを連れてきたミクラらしき女の子がいる。
  • 復興省が露敏を手配した際に登場した用心棒・竹塚も、p.114でククの隣にいる。またその時点ではエピソードがないにも関わらず、2巻の表紙にも描かれている。

これらが現時点でわかっていることだ。また春希(キルコ)を襲ったステルス能力を持ったヒルコが、トキオの可能性もなくはない。能力が似ているからだ(しかしトキオの能力は単に監視カメラに映らないだけでなく、自分が見つかりそうになったら別の箇所の警報が鳴り始めるという便利なものだ<2巻>)。ただトキオがカメラに映らなかったり、警報が鳴ったりするのは、ニーナ(施設の管理AI?)がサポートしていた可能性が高い。

また露敏は顔立ちや運動能力の高さから、タカの可能性がある(そう思わせる作者の仕掛けかもしれないが)。しかし宇佐美の元にいた露敏は、本来持っていないはずの「外科の知識もあって…(4巻p.67)」と書かれており、猿渡(医者)が自らを脳移植してなり替わっている可能性も示唆されている。

おわりに

『天国大魔境』が第1巻1話から複雑に伏線を張り巡らせてきたことが、伝えられていれば幸いだ。作者・石黒正数はかなり複雑な構成の中で話を書いており、ヒット作『それでも町は廻っている』でも、全ての話の時系列がバラバラになっていた。読者は与えられたヒントから時系列を推測できるという、非常に緻密な物語構成だった。

コマの端々にヒントを書いていくことで、読者側での推理が可能になっていくというオリジナリティにあふれたスタイルは、日常系SFともいうべき本作でも、そして『天国大魔境』でも読者を魅了している。

今後どのようにストーリーが展開していくのか、今回の推理があっているかどうかを含めて注視していきたい。新刊が出て新たに判明した部分があれば更新していくので、ぜひまた来てください。また私が気づいていないことがあれば、ぜひコメントまで。それでは。