税法を分かりやすく解説するパイオニアともいえる木山泰嗣氏による課税要件の入門書を読んだ感想。どんな人がこの本を読むべきか。
入門 課税要件論/木山泰嗣
税法のプロとして、あるいは弁護士として活躍されている木山泰嗣氏による「課税要件」の入門書。税理士にとって最大の難所ともいえる税務調査対応の現場において、根本的な知識として知っておきたいのが課税要件である。
税務の現場にいる者なら誰しもが直面するのが、法解釈の問題であろう。多くの事例に適応するように一般的な内容をもって書かれた税法を、個別具体的な事例に落とし込む際に、解釈に迷う場面が出てくる場合がある。
そんな時に課税要件の基本的な考え方や、税法と通達との関連性、あるいは誰が課税要件を証明しなければならないのかといったことを抑える本書を読んでおくことは、一つの武器となり得る。
課税要件とは
納税義務が成立するための要件のことを、課税要件(=納税要件)という。課税要件の解釈適用によって、納税者側にとって有利・不利な判断を裁判所が下すことは、多くの判例が示している。
例えば有名な競馬の払戻金が一時所得・雑所得どちらに該当するのかという判例も、課税要件や法解釈をめぐる判断の問題である。
この「入門 課税要件論」では、様々な判決文を引用しながら、これまで裁判所が課税要件についてどのような判断を下してきたのか、そしてこれからどのように判断を下していくのかを類推する内容になっている。
どんなことが知れるか
基本的な課税要件の考え方とその解釈によって生み出されている諸問題を知ることが出来る一冊だ。
ある種学問的で実務からは遠い内容だと思われる方も多いかもしれない。しかし税理士にとって知っておくべき、租税回避にまつわる判例と解釈や、非上場株式の評価をめぐる「特段の事情」問題。そもそも税務署が否認する際に、誰に立証責任が発生するのかといった実務で役立つ知識も盛りだくさんである。
本書後半には、令和元年の判例を用いて 裁判所が「経済合理性基準」とは異なった基準で、同族会社の行為計算に関する行為計算否認規定について判断を下しているという指摘があった。最新の内容をキャッチアップしておくべき税理士にとって、読むべき一冊といえるだろう。