9巻の表紙はマルとキルコの日常
劇的な展開を見せた9巻だが、表紙は崩壊後の日常を描いたワンシーン。同じタイミングで4月から放送されていたアニメ『天国大魔境』も佳境を迎えていた。ちなみにアニメ版のBlu-rayBOXには、天国と魔境それぞれの日常を綴った書き下ろしマンガが載っているとのことで、要チェック。
いよいよ『天国大魔境』も解答編へ。猿渡の過去や、学園の子供が魚の怪物になるシーンが明確に描かれ、過去の考察と答え合わせが進んでいく。
当ブログで6巻~7巻あたりまでを読んで書いた考察記事についても、概ね正解をかけていたのではないかと思う。では、9巻を細かく読むことで新たに明らかになったことを書いて行こう。
タカの能力と1巻に登場した鳥のヒルコ
9巻のはじまりでは、タカVSミチカのバトルが描かれる。その後のマルとミチカのバトルの事を思うと、タカが刀を持ち出さなかったら命を奪い合うような事態にはならなかったんじゃないかとも思えて、少し切ない展開である。
タカの能力は2m程度の射程で一方向から見えない斬撃を繰り出すものだった。この能力は、程度は違えど1巻に登場した鳥のヒルコの能力と似ている。石黒正数先生ならば、本作を象徴する最初のヒルコにも、何らかの意味を持たせるだろうと考えられるが、やはりメインキャラクターが怪物化したものだったのか。
トトリ再登場
ミチカとのバトル前日、ベビーカーを押すタカはアンズとの間に生まれた娘を、一時的に置いていく。その子どもにつけられた名前は「トトリ」。3巻・第17話に登場した、ホテル王を目指す女の子の名前である。同じく「トトリ」というタイトルが付けられた17話の扉絵には、親であるタカとアンズの姿が描かれていた。
よく見るとタカがトトリを置いて行った建物の中には、この後トトリが共に歩んでいくことになり、最後にはクマに襲われて死んだ町のリーダーの姿もある(3巻16話「100%安全水」参照)。
ミチカとタカの因縁
タカが能力でミチカに襲い掛かるシーンで、学園で遊んでいた時にいきなり足が切れたことがあったことが振り返られている。このエピソードは4巻のp.109に描かれている。ジューイチの息子と同様に、幼いタカは自分の能力が制御できなかったのだろう。
同じシーンでアスラに「目を閉じて浮かんできた物を集中してよく見てみて」と言われたコナは「光の剣」を目にしている。このシーンで初めてタカの能力である「見えない斬撃=光の剣」が示されていた。
扉絵①ミチカの年齢
『天国大魔境』で定番になりつつある、扉絵でヒントを出すシリーズ。第50話では各年代ごとのミチカが描かれているのだが、よく見ると下に推定年齢が書いてある。タカと戦った時が14歳、マルと戦った時が25歳のようだ。
この11年の間に何があったのかは定かではないが、51話の扉絵に描かれた「極悪連盟 竹塚一家」に拾われたミチカは、竹塚という名前を受け継いだだけでなく、喋り方まで南九州っぽくなっている。p.66でリーダー・竹塚が発した「どいつもこいつも理由が必要なんじゃのー」というセリフは、p.29でミチカがマルに喧嘩を吹っ掛ける際にも繰り返されている。
竹塚のざっくりとした治療で、しれっとミチカの切断された腕がくっついているのはさすが新人類である。
扉絵②生きていたナタ
第52~53話でついに魔境編に登場した猿渡(迫田)。よく見ると医院には学園にいたロボが登場している。若干デザインは違うものの、1話から登場している先生ロボと色や腕がそっくりだ。だがこのロボ、しゃべり方が非常に人間的である。これまでの先生ロボのようなメカっぽいしゃべり方ではない。
第55話、ヒルコを「どうやったら安全に閉じ込められるのか」と考え、怪物化した学園の子どもたちを救おうとしていた猿渡医師は、半ば自決するような形でアンジュラス(怪物化したアンズ)に特攻し、その生涯を終える。その場面で、医院に残されたロボは何らかの能力で猿渡に起こったことを察知し、「先生!?」と言っている姿が描かれる。異質である。
その答えは52話の扉絵に描かれている。学園長の入れ物として、脳移植の対象となってしまった学園の子供・ナタが、ロボの背に乗っている姿が描かれる。7巻p.102でもナタの生存は示唆されていたが、手術を執刀した猿渡の手によって、ひそかにロボの中へ能が移植されていたことが明らかとなった。
よく見ると8巻の表紙の「大」の右に謎の機械が置いてあるが、恐らくここにナタの脳が入っている。その証拠に9巻に登場したロボの背中には、この機械がコードに繋がれて装着されているのである。
学園長の脳移植の時点では、猿渡は高原学園が起こしたテロとその結果の世界滅亡を知らなかった。その時の深い後悔があったのだろうか、キルコの命を救った手術のこと脳を猿渡は、脳移植ではなく「体移植」と表現していた(p.108)。
ヒルコの天敵としてのマル
8巻で示されたように食事が一切ない状態でも400年以上生きられるヒルコ。その天敵であり、唯一ヒルコが死ぬ可能性があるのがマルである。p.158でマルはモモイカに「僕らの敵」といわれる。復興省の巫女ともいうべきモモイカは、高原学園の5期生(オーマの同級生)としてこれまでも登場していたが、彼女がいう「僕ら=ヒルコ」の敵には、天敵というニュアンスが含まれるのだろう。
ミクラ(学園長)がマルにヒルコの殺し方を教えたことが3巻冒頭で描かれており、「天国を探す旅」の目的にも絡んでくる重要な要素だろう。
だとすれば、p.82でモモイカがアンジュラスに向かって言った「怖いねーただ敵に向かって歩いてるんだよー」の「敵」とは一体なんなのだろうか?
マルに銃を向けるキルコ
まだ未解明の伏線だが、本巻で特に印象的なのがp.130-131。これまでも重要な場面が描かれてきた「死を彷彿とさせる洞窟のシーン」に、ついにキルコが登場する。
明確には描かれていないが、①ホルダーにキル光線が入っていない②右手を前に突き出していることから、マルに銃を向けていることがわかる。これがマルなのか、それともマルと同じ顔であるヤマトなのかは不明だが、誰かから呼びかけられて目を覚ますキルコ。
何らかの未来が描かれたシーンであることが予想されるが、意外とキルコを「キルコ」と呼ぶキャラクターは少ない(マルは「お姉ちゃん」と呼ぶ)。恐らく『天国大魔境』の終盤で明らかになってくる伏線ではないだろうか。
おわりに
物語が急激に核心へと迫っていった9巻。青島や猿渡、そして学園の子供たちの魔境編への再登場が印象深い。特にp.159で書かれたシロがなぜ「機械工作」で「人体を機械に置き換える」ことを学園時代から目指していたのかが示される(学園のシロの部屋には三半規管など人体の図面が描かれている)。ミミヒメの将来を無意識のうちに予知し、来るべき日に備えていたのだ。
アニメ『天国大魔境』ではシロとミミヒメの最期が大幅に追記される形で描かれた。アニメ史に残る名シーンになっているため、合わせてご参考頂きたい(7/3までアニメ『天国大魔境』の1話~8話が無料公開中)。
またp.98には石黒先生の傑作マンガ『それでも町は廻っている』に登場した「喫茶シーサイド」がパロディ的に登場している。
次巻以降で描かれていくであろうこととしては、
- 過去には地面を這いずり回っていたアンジュラスが、なぜ光の手足を持つに至ったのか。そもそも封印地点からなぜ動き始めたのか。
- p.80で示唆されたように、ミチカとマルは似ている。思えばミチカはヒルコを倒して回ろうとしていたが、ミチカとマルの関係性は?
- 竹早桐子はなぜ銃で撃たれたのか
次巻は2024年になるだろう。今から待ち遠しいが、連載誌であるアフタヌーンを購読する手もある。今後の展開に要注目。
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