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【アニメ】天国大魔境を原作との違いから考察・レビュー

『天国大魔境』アニメ版で追加された要素や新たに明らかになったことを考察する。ネタバレあり。自分で考えた方が面白い可能性も高いため、ご注意ください。

アニメ『天国大魔境』への原作者の協力

ディズニー+で独占配信されているというアクセスが難しい状況だったアニメ『天国大魔境』。月刊アフタヌーンで連載されているこの人気作が、なんと2023/7/3まで無料公開中のため、見るなら間違いなく今だ!アニメ版は原作ファンから見てもかなり納得の出来で、特に崩壊後の日本が上手く描写されている。

この作りこみに影響しているのが、原作者・石黒正数氏の積極的な協力だろう。細かな伏線を取り漏らさないような協力体制が垣間見える。それでは、各話毎に原作との違いや伏線に注目しながら見ていこう。

第一話「天国と地獄」

一話の内容で印象的なのがこの鏡の前に立つシーン。特に原作者・石黒先生がTwitterに書いていた通り、頭と体が別人になっているキルコを、鏡の割れ方で象徴的に表現している。

第二話「二人の告白」

この回で原作になかった描写・演出として、鳥のヒルコを追いかけるシーンが印象的だった。暗闇の中、懐中電灯だけで怪物を探す緊迫感。アニメならではの表現だ。その後、マルが敵の攻撃をかわしながら接近するシーンは圧巻。

第三話「桐子と春希」

この回には、原作で描かれなかった2つのヒントが出てくる。

  • 原作では、春希がヒルコに襲われ意識を失うシーンで、「パーン」という音が描かれているのみ→アニメ版では明確に「銃声」になっていた
  • 一言だけ会話したはずの「医者」の声優が誰であるかクレジットされていない

声優についてはかなり先の展開のネタバレを含むためあえては書かないが、前者はアニメならではの伏線として、後者はアニメならではの先の展開のネタバレ防止として、採用されたのではないか。そして「医者」の声優をしていたであろう武藤正史さんをクレジットしないわけにもいかないので、モブである・片山〈レーサー〉も演じているという…。

銃で撃たれた桐子

原作漫画に登場しなかった手術のシーンでは、金属片のようなものを取り除く「医者」が描かれる。またキルコが頭の包帯を外すシーンで(原作と同様に)描かれた、小さな傷跡にも注目したい。この小さな傷跡は、同時に大きな伏線でもあるので、ここを見落とさず描いたことに積極的な原作者の協力が見られる。

この傷跡と上述した銃声が、桐子が「銃で撃たれ」命を落としたことの伏線になっているのだ(ちなみに原作ではキルコの頭にハゲができていることでも示唆されるが、アニメ版ではカットされた)。

キルコが目覚めるシーンは、さながら医療ドラマのような緊迫感があり、原作の人の死が日常化した平坦さがある描写とは異なった描き方がなされており、それも面白い。

また個人的には、現在のキルコの体に残っている傷跡が、春希を助けようとしてカートでヒルコに突っ込んだ時にできたものであることが、アニメでフルカラーで描かれたことにより、明確化されたと思う。

第四話「クク」

魚のヒルコとのバトルシーンの躍動感がすごい。この話は、初めて天国編と魔境編のつながりが示唆される内容になっている。原作マンガ以上に人とヒルコ、それぞれの状態のつながりがアニメで可視化されたような印象だ(壁をぺたぺた登るシーンが天国と魔境で交互に描かれるのは原作も同じだが、アニメがつくとよりわかりやすい)。

何の話か分からない方は、こちらの記事も(ネタバレ有りなので注意ですが)ご参考ください。

またトキオが保育器室に侵入するシーンでは、壁に書かれたモニターで1体だけ以上を示す黄色になっている。これもフルカラーのアニメならではの描写だ。

第五話「お迎えの日」

原作の石黒先生が書いている通りで、部屋のドアが開いていたことに対するキルコ役・千本木彩花の演技が素晴らしい(原作ではいきなり部屋のドアをがばっと開けるので、この流れ自体がない)。孤児院のみんなに置いて行かれてしまったキルコのトラウマが表面化するこの名シーンは、のちにクマと戦う際「銃を使うのがうまい」と褒められ、自尊心の回復へとつながっていくのである。名演技。

このシーンの誕生には、石黒先生の要望があったようだ。またアニメならではのところとして、マンションの一室に靴のまま入る「崩壊後」感が、スニーカーの靴音が追加されることでより鮮明になった印象。

あと、アンズが躍るシーン音楽追加されるとよりイメージがつくね。ケルト音楽を演奏してたんだ。

第六話「100%安全水」

トトリ(ホテル王)の描写に作画全振り。特に面白いのは、トトリの声とアンズの声が同じ松岡美里であることだろうか。この二人のつながりは、第四話のところに記載した記事参照。

第七話「不滅教団」

宇佐美医師、初登場。声は武内駿輔が担当している。

ちなみに石黒先生が書いている通り七話は学園パートがないのだが、その理由として考えられるのは、実はシロ(機械工作が得意なキノコ頭の子)の声が武内駿輔なのである

スタッフロールが重大なヒントになってしまうので、あえて分けたということだろう。シロと宇佐美の関係性も四話の項を参照。

ちなみにマルがいきなりキスしてたのはこういう理由から。

第八話「それぞれの選択」

衝撃回。原作では描かれなかった宇佐美医師と星尾の最後の数分間が描写される。こんなん誰が見ても泣く。高原学園のボタンを握りしめ、過ぎし日を思い返す描写。EDテーマ「誰も彼も何処も何も知らない」は歌詞もアレンジも、8話のEDに作られた特別版だった。原曲と異なり、ささやくように歌われる2人の結末。

誰も彼も何処も何も知らない

Amazon Musicはこちら、他のサブスクでも配信中なので、アニメEDでは聞き取りづらかった部分もある歌詞をぜひ聴いてほしい。

また、8話の宇佐美が過去を振り返り「俺が何か作っていると、彼女が喜ぶんだ」というシーンがある。この場面も原作ではすでに酸素マスクをつけているが、アニメ版ではまだ症状が軽く、二人が会話している様子が描かれている。ここもグッとくる。

そして8話ラスト、洞窟の中にいるミミヒメ。(原作でも描かれていたのに気づかなかったのだが)左胸のボタンがない。こんなところにも伏線があったのか、ということにアニメ版で初めて気づいた。

原作ではあくまで少しだけ登場するキャラクターとして描かざるを得なかった宇佐美と星尾。その重要性が分かった今だからこそ、アニメ版ではしっかりと二人の描写が補完されたのだろう。

おわりに

一旦、現段階ではYouTubeに配信されている8話までで止めておこうかと思う。1週間後くらいには追記するので、また見に来ていただければ。

アニメならではの描写で、また別角度から面白さが描かれている印象だ。逆にマンガだと、トキオの性別に関する叙述トリックは、アニメよりも驚きが強くなるんじゃないかと思う。名前もオがついているし、ミミヒメとくっついていてシロに嫉妬されるシーンがあったりする(学園内で性別の境なく育てられているだけなのだが)。

アニメ版だけみてトキオの身体的な性別を錯覚した人ってどれくらいいるんだろう。この叙述トリックはさすがに声の問題があるから難しい部分もあったんじゃないだろうか。

何年も前からファンだったマンガが、こんな形で最強のアニメーションになって本当にうれしい。それでは。

なんと、Blu-ray BOXには石黒先生の書き下ろしマンガがついてくるとのこと。要チェック。

最新9巻は6月22日発売予定。