Voyage Bibliomaniac

旅先で本を読む至福を満たすブログ

僕のヒーローアカデミア論-バットマン映画と比べてわかる特異性

アメコミヒーローからの影響を感じる人気マンガ『僕のヒーローアカデミア』が、バットマン映画の名作『ダークナイト』『ジョーカー』との類似点や特異点について考える。ネタバレを多数含むため、ご注意ください。

『ダークナイト』のテーマ~「正義」と「悪」

ダークナイト (字幕版)

『ダークナイト』は名監督クリストファー・ノーランが往年のダークヒーロー・バットマンを主人公に、世に「正義とは、悪とは」という二項対立を問う力作である。本作において特に注目すべきは正義の味方であるはずのバットマンの行動が、モラルに反するものになっている点だろう。

ジョーカーを拷問するバットマンは悪に接近する

恋人と検事を誘拐されたバットマンは、ヴィラン(悪役)であるジョーカーを拷問し、情報を聞き出そうとする。悪との戦いの中で、自身の行動が「悪」と接近していく。9.11により激化したテロ対策においてCIA(米中央情報局)による拷問が行われていたことは、今や広く知られている。

また『ダークナイト』には、ゴッサムシティの人々の携帯電話を傍受し、ジョーカーを探知するシーンが登場する。モーガン・フリーマン演じるルーシャス・フォックス(バットマンのサポーター)は、バットマンに反対しながらも、本装置を起動する。なぜ反対するのだろうか、それはこの行為が「正義」ではなく、「悪」に近い行いであるからだろう。

なお米国においては、NSA(アメリカ国家安全保障局)が電話回線等の傍受(全世界で970億件/月)を行っていたことが、スノーデン氏が英ガーディアン紙に暴露したことで世に知られた。同氏は情報漏洩罪により指名手配を受けた。

このように実際の「正義」の現場での行為が、いかに「悪」と判別しがたく、「悪と正義の二項対立」が古い価値観であるかという点は『ダークナイト』のテーマの一つであった。

ヒロアカの特色は、ヴィランに重点をおいた描写

僕のヒーローアカデミア 27 (ジャンプコミックスDIGITAL)

本作におけるダークヒーローと言えば、ホークスだろう。ヒーロー陣営の仕掛けたホークスのスパイ活動は、ヴィラン陣営のトゥワイスの精神を徹底的に破壊する。そしてホークスの情報を元に、ヴィランたちの本拠地へと一斉攻撃を仕掛けるヒーローたちの姿は、「正義」の行いとは言い難い非情な奇襲作戦であった。

仲間を守るために命をささげるトゥワイスは、これまで自己を犠牲にしてきたヒーローたちと重なる。ヴィランである彼ら/彼女らの人生が丁寧に描かれてきたからこそ、我々読者もヒーローではなくヴィランに共感する。個性を重視する社会において、「個性的」であり過ぎたがゆえに、社会からはみ出してしまったヴィランの姿に。

私たちが生きる現実世界においては、個性を奪うような均質化の教育が行われて久しく、昭和の時代に政府主導で押し進められた「中流の核家族世帯」というイメージは今も押し付けられ続けている。そしてそういった一定のイメージから外れ、社会からドロップアウトしてしまうケースが社会問題となっている。受験勉強に就職活動、気づけば顔も知らない誰かと競わされている。そういった背景を思えばヒーロー側よりも、むしろヴィラン側に自分を重ねている人は、多いのではないだろうか。

「正義」と「悪」の分かちがたさを描く点において『僕のヒーローアカデミア』と『ダークナイト』は接近する

『ジョーカー』というヒーロー映画の特異点

バットマン最大のヴィランの誕生を描いた『ジョーカー』は、同様に悪役の人生を掘り下げることで『僕のヒーローアカデミア』の歩みとリンクする。本作においては、ヒーロー映画にありがちな、胸のすくようなアクションシーンは一つも出てこない。あるのは暗澹たる現実だけだ。

『ジョーカー』は告げる。ヴィランは人間である。

ニューヨーク市警は『ジョーカー』の公開に際し、市内全域の映画館に私服警官を配備する厳戒態勢を敷いた。ヴィランへの共感を生む本作が、現実のジョーカーを生んでしまうことを恐れたのである(この背景には、『ダークナイト』の続編『ダークナイト ライジング』公開時に起こった、ジョーカーに影響を受けた人物による銃乱射事件がある)。

本作に描かれたように、社会がヴィランを生むとすれば、果たして誰が犠牲者と言えるのだろうか。

僕のヒーローアカデミアの特異性

僕のヒーローアカデミア 28 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ここまで『僕のヒーローアカデミア』と『ダークナイト』『ジョーカー』の共通する要素について考えてきた。では『僕のヒーローアカデミア』が独自にたどり着こうとしているものは何だろうか。

『ダークナイト』において、ヒーローは社会を「守る」ことが役割として与えられている。だからこそバットマンは、恋人と検事を誘拐され、いわば個人と社会を天秤にかけ、どちらを救うかという二者択一の選択肢を迫られる。

『僕のヒーローアカデミア』においては、主人公・緑谷出久は誰かを「救う」存在である。これはキーフレーズとして、本作の要所に登場する。もちろん社会そのものへの視座はあり、正義の象徴たるオールマイトは登場するが、個々のキャラクターにおいては、あくまでもそれぞれの個人への「救い」に視線が注がれる。

僕のヒーローアカデミア 30 (ジャンプコミックスDIGITAL)

筆者が感じるヒロアカの特異点は僕のヒーローアカデミア30巻に登場する。

ヴィラン陣営のトガヒミコは、市民を殺害し変異することで、ヒーロー陣営のお茶子と接近する。お茶子の発する「大丈夫です!私が助けます!」という言葉に、トガは「本当に!?」と返答し、乱戦の末、涙を見せる。

また同巻最終コマにおいては緑谷も、敵のボスである死柄木の表情が「救けを求めたように見えた」と振り返る。本作においてヒーローが全てを「救う」存在であるならば、次の点こそバットマン作品と比較した本作の特有のものだろう。

ヴィランはヒーローにとって救いの対象か。

思えばヴィランは社会からドロップアウトした人々であり、一概に彼ら/彼女らの自己責任に全てを押し付け、「悪」と決めつけることは正しくない。ヴィランも人間であり、ともすれば救いの対象足りうるのだ。それは我々が生きる現実世界において、一度社会からドロップアウトしてしまった人々の復帰が困難な現状ともリンクする、重要なテーマである。しかしすでに多数の人間を殺害しているヴィランを肯定することはモラル的にかなり難しく、今後どのように物語を進めていくのか、要注目だ。

おわりに

同時に、荼毘(轟燈矢)がエンデヴァーの息子であるということが明かされ、複雑化していくヒーローとヴィランの構図。ジョーカーと同じく、踊るように社会秩序を破壊していく荼毘。

僕のヒーローアカデミア 31 (ジャンプコミックスDIGITAL)

そして最新の31巻において明示された、緑谷出久の「救い」への決意。最終章が開幕し、ギアを入れ替えた『僕のヒーローアカデミア』がどこへ着地していくのか。今後も強く期待していきたい。

最終章の第1冊目ともいうべき第32巻は2021年10月4日発売予定だ。

『ヒロアカ』『ダークナイト』好きにおすすめの映画

ウォッチメン (字幕版)

バットマンやスーパーマンを擁する歴史あるアメコミ出版社・DCコミックス原作の『ウォッチメン』は、本記事のテーマが好きな方であれば必見の一作だ。

あらすじ:ヒーローによりベトナム戦争を勝利したアメリカで、コメディアンと名乗るヒーローが何者かに殺害される。その捜査に取り掛かったロールシャッハは、ヒーロー全ての抹殺を企む何者かがいるのではないかと推測し、その他のヒーローたちへと接触するが…?

ヒーローを兵器のような「戦力」とみなし、「正義」と「悪」の二項対立では捉えきれない社会秩序の維持を描いた作品。わかりやすい爆発やアクションよりも、深遠なテーマをヒーロー映画で味わっていきたいという方は、ぜひ見てほしい。それでは。

ウォッチメン (字幕版)

ウォッチメン (字幕版)

  • ローラ・メンネル
Amazon

【人さらいの化物の正体】『この世界の片隅に』を考察する

インターネットに散らばる様々な情報から推測した、アニメ映画『この世界の片隅に』の考察集。※多数のネタバレを含みます

妊娠の表現

すずさんの妊娠は勘違い(戦時下の栄養失調による生理不順)だったことは原作で語られている。映画版では朝に二人分のご飯がすずに出されるが、夜には一人分に減っていることで暗に勘違いであったことが知らされる。

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

2019年12月に公開された一部のテーマ変更も含む、完全版『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』では、すずが産婦人科に行く前後のシーンが追加され、妊娠というテーマが補強されている。当時の女性にとって出産がどんな意味合いを持っていたかということが分かり、胸が苦しくなる。

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: Prime Video
 

奥へと向かっていく立体的な表現

「この世界の片隅に」は基本的には平たんな、水彩画のような表現が続いていく。しかしその中で、立体的に奥へと向かっていく描写が2つあった。

  1. 晴美の死後、爆弾から逃げるシーン
  2. すずがサギに「広島へ帰れ」と叫び、あるはずのない海苔を乾かす台が並ぶシーン

共通点は「どちらも現実に起こらなかったこと」という部分だ。この立体的な描写はすずの願望を表している、そして当時、戦時下の女性が置かれたどこにもいけない状況と対比されているように感じられる。

広島弁と呉弁

この世界の片隅に

本作では広島弁と呉弁が使い分けられている。この効果がはっきりと表れるのが、後半にある呉を妹のすみが訪問するシーンだ。呉の厳しい現実の中で、「古着じゃが純綿よ」「スフ入っとらんの?」と明るく会話する姉妹の広島弁は、あまりにも場違いなのだ。

その後、焼け野原を前にしてすみの将校さんとのやり取りが明るく響く。当時(原子爆弾が落とされる前)は、軍港としての呉は集中爆撃を受け、広島よりも厳しい状況にあった。

広島から来たすみが道端に置かれた線香の前にしゃがみ、それを呆然とみまもるすずのシーンからは、すでに呉の人となったすずと広島の人であるすみが対比されている。

遊郭の女の子について

①カットされたエピソード

映画版のクレジットでは、最後にクラウドファンディングの支援者リストが表示される。その際に下に表示されているラフ画は遊郭ですずが出会った女の子「白木リン」というキャラクターの生い立ちを描いたものだ。

これらラフ画は予算の関係で入れられなかった「白木リンとすず」を取り巻くテーマに関わる重要なものだ。

②タイトル「この世界の片隅に」の意味

「この世界の片隅に」と「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」では、タイトルの意味が変わってくる。

「この世界の片隅に」

「この世界の片隅に」における「この世界」とは、我々が住む日常である「この世界」を指し、戦時下の日常の中で小さな幸せを見つけた女性の話を書いていると考えることが出来る。

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」では、北條周作の過去にフォーカスが当てられることで個人的な、周作にとっての「この世界」を指すように感じられる。

名シーンの意味

この世界の片隅に、わたしを見つけてくれてありがとう。」と周作に語るすずのシーンはどちらの映画にも共通するが、全く意味合いが異なってくる。

そして「この世界の片隅に」ではやや収まりの悪かった「過ぎた事 選ばんかった道 みな覚めた夢と変わりやせんな」という周作のセリフがピタッとはまるのも「さらにいくつもの」の違いである。

まだ見られていない方は、その点に注目してご覧いただきたい。

終戦の描写について

終戦の描写がマンガ原作と映画で全く異なることもぜひ知っておいていただきたい。

①原作(マンガ)での展開

「・・・ああ。暴力で従えとった言う事か。じゃけえ暴力に屈するいう事かね。それがこの国の正体かね。うちも知らんまま死にたかったなあ・・。」

終戦の放送を受けて、このセリフをつぶやき泣き崩れたすず。そのシーンには、すずの心の声が書かれている。

―飛び去っていく、この国から正義が飛び去っていく―

自分たちが行っている戦争が正義だと信じていたからこそ、すずは明るくふるまってこられたのだ。そうして信じていたものが、「正義」ではなく「暴力」に過ぎなかったと知ってしまったからこそ、「死にたかった」とまで口にするのである。

②映画での展開

映画版では、すずは終戦に対し強い怒りを覚える。

「まだ戦える!右手をなくしただけ!左手も足もある!」

自分が様々な理不尽に耐え、大切な人を失ってまで貫いてきたものを、簡単に捨てることなど出来ない。戦争は彼女を民間人から兵士へと変えていた。

違いが生まれた理由

片淵監督はセリフを変えた理由について、「戦後に行われた意識調査の結果、大義ではなく戦力で負けた悔しさがあるという答えが多かった点」をあげ、すずさんが終戦のタイミングで日本という国家の大義まで背負うのではない書き方を探ったと答えている。

化物の正体について

序盤に登場する化物の正体は、すずの兄である。南国の戦地で死んだとされる「アニ」は、凶暴な「ワニ」と結婚してハッピーエンドを迎えているからだ。どこかで生きている鬼いちゃんが、髪と髭をぼうぼうにして、広島へと帰ってくるのである。

すずと兄の関係性

すずは兄が嫌いだった。自分の身の回りの嫌なことをファンタジー化して、絵や小説にすることで心を守っていた(心理学ではこれを「昇華」という)。だからこそ鬼いちゃんはああいった形で描写されたのだ。

「歪んでいるのは私だ 鬼いちゃんが死んで、良かったと思ってしまっている」

兄の死が告げられるシーンでのすずの心理描写は、兄妹の関係性がどのようなものであったかを強烈に観客へと伝えている。

『キング・オブ・モンスターズ』の悪い点を『シン・ゴジラ』と比べる

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』と2017年の大ヒット映画『シン・ゴジラ』の良い点・悪い点を比較することで、これから見る方の参考に。

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

ハリウッド版ゴジラの最新作が、2019年5月31日に公開された。前作から5年後、キングギドラやモスラなど、数体の怪獣が目覚め、再び地球は危機に陥る、というのが本作のストーリー。

そう、今回はオールスター出演のお祭り騒ぎ的な1作なのだ。ついにハリウッドのクオリティーでキングギドラやモスラが暴れる!これだけで往年のファンは食いつくこと間違いなしだ。だけど、普段あまりゴジラシリーズに触れていない人は、面白いのか気になるはず。そこで今回は大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』との比較を通じて、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の良い点と悪い点を書き連ねてみよう

良かった点

まずはポジティブな部分から。やはりハリウッドはすごいと思えた映画だった。

怪獣のバトルシーンが派手で最高

本作で怪獣は暴れまくる。とにかくド派手な戦いは、ゴジラvsキングギドラやモスラvsラドンなどのドリームマッチとして、僕らをハラハラドキドキさせてくれる。

恐らくゴジラの歴史上最弱のラドンですら、飛ぶだけで徹底的に街が破壊しつくされ、怪獣に人間は抗えないという絶望感が刻み込まれる。こういった恐怖や凄みを出す演出に関して、ハリウッドは一流なのである。

『シン・ゴジラ』ではゴジラのデザインや、暴れるシーンを絞ることで恐怖心を煽ってきたが、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は常にバトルが激しい。 『シン・ゴジラ』が玄人同士の県道の試合だとすれば、本作は必殺技の飛び交うプロレス・マッチなのである

ノリが軽い

これは日本のゴジラにあまりなかったアメリカ的な要素なのだが、登場人物がジョークを飛ばしまくる。すごそうな戦艦や最新テクノロジーは一切の説明なくそこに存在し、なんとなくでゴジラの気持ちを分かった気分になって、全員がそれを信じて動いていく。論理を積み重ねてゴジラを停止させた『シン・ゴジラ』とは真逆である。

本作の登場人物は、人が死んでも1分後には忘れているような気がする。

仕事に疲れて土日に見る作品としては、これくらいのノリの軽さが心地いい。もう怪獣がドンパチ派手にやってるのを見ながら、ドキドキするだけでいいのだ。悲しい気分にはならなくていい。本作はオールスター総出演のお祭り映画なのだから。

怪獣がいっぱい出てくる

事前に報道されていたモスラやキングギドラ以外にも、たくさんの怪獣が登場するのも熱い。これがハリウッドの製作費の力なのだろうか。『シン・ゴジラ』との大きな違いはここだ。まさに夢の戦いで、頭を空っぽにして見れる。はずだったのだが、実は本作にはいくつか気になる点がある。次にそれを書かせてもらいたい。

悪かった点

本家の元を離れたことによって生まれている良くないポイントがあった。いくつか紹介したい。

ゴジラのデザインがダサい

なぜかゴジラのヴィジュアルがおっさんだ。スタイリッシュさが一切ないずんぐりむっくりの体躯に、異様に太い首。なんか知らんが広すぎる肩幅に、鼻からは煙まで出ている。プロレスラーかよ。キングギドラがめちゃくちゃカッコよかっただけにここが惜しい。

登場人物がだいたい狂ってる

マジで感情移入が出来ない。ただの一人も何を考えて生きてるのかわからない。行き過ぎた環境保護論者に、仲間になるのか分からないのに数千の同胞を亡き者にした怪獣の生存権を訴えるアニマルライツ活動家。同僚が死んだ直後にジョークを飛ばす非人間的博士や、数々の無能たち。「そうはならんだろ」の連続で何千万人の命が無駄になる。

ある意味面白く、彼らによって異様にテンポは良くなっているが、こんなおバカ映画的な登場人物ばかりだと、なぜかコメディーのように見えてしまってドキドキ出来ない。恐怖と爽快感を味わいたいのに、なぜかブラックジョークを浴びせかけられ続けているような状態で、人間の描写に拘っていた『シン・ゴジラ』に大きく劣っている言わざるを得ない。

田中圭の声が合ってない

これは吹き替えでみた筆者も悪いのだが、主人公のおっさんと田中圭の声が全く合っていない。声が余りにも若すぎる。ずっと画面にいる様な人物なので、耳が慣れるまでまったく本編に集中できず、もったいない思いをした。ぜひとも字幕版でご覧になっていただきたい。

怪獣に知性がある(気がする)

本作では怪獣に知性と呼べるものがある。街を縦横無尽に破壊しつくしていた過去作と違い、怪獣たちは重要そうな人物を狙い、他の怪獣を従え、命令を発する。

完全に個人の見解なのだが、ゴジラたちの魅力は目的や行動原理が掴めないところだ。だからこそ人はゴジラに恐怖する。止め方が分からない暴れブルドーザーは誰だって怖い。しかし相手に知性があれば、コントロール出来てしまう。

怪獣達を操る手段や、誘導する方法など、その内面が読めるようになったとき、人間が怪獣の上位に立つ。それではゴジラ達に真の恐怖を覚えることは出来ないし、どこか余裕をもって見れてしまうのである。

『シン・ゴジラ』ではそもそもゴジラの形態も違い、どこにいるのかも全く分からないなど、多くの謎が恐怖を煽っていた。『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』では、怪獣のことが明らかになりすぎている

おわりに

というわけでつらつらと書かせていただいたが、頭を空っぽにしてみる分には最高の映画だと思う。怪獣たちのプロレスを見たい方はぜひ。逆に『シン・ゴジラ』のような未曽有の大災害の恐怖や、ドキドキ感を味わいたい方は、細かい部分が気になりすぎるので楽しめないかもしれない。

そういった点を頭に入れながら、見に行くかどうかを決める手助けとなれていれば幸いだ。今後も同じ時系列で続いていくシリーズのようなので、長く楽しめることは間違いない。

U-NEXTで見れる!

U-NEXT

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』はU-NEXTの無料トライアルで視聴可能! 無料トライアルを実行すると…

  1. 31日間、U-NEXT内の見放題作品(13,000本以上)を視聴可能(最新作は都度課金)
  2. DVD・ブルーレイよりも早く配信される最新作、放送中のドラマなどの試聴に使える600ポイントを付与!
  3. 追加料金なしで70誌以上の雑誌が読み放題

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』がU-NEXTで視聴可能(※付与されるポイントを消費します)。


本ページの情報は2020年5月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。


ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(字幕版)

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(字幕版)

  • 発売日: 2019/11/19
  • メディア: Prime Video
 

【アジア+アメリカ=サイバーパンク】未来都市が舞台のSF映画8選

高層ビル群に踊る漢字のネオンサイン。いかがわしく黴臭い路地裏でラーメンを啜る男が一人。そんな風景を舞台にした、都市が魅力的な映画をご紹介する。

『ブレードランナー』

2019年、人間に限りなく近いアンドロイドが逃亡する事件が社会問題となっていた。逃亡したアンドロイドを射殺する責務を負った刑事・デッカード(ハリソン・フォード)は、追跡の最中で様々なアンドロイドと出会い、何が人間を人間足らしめるのか、思索していく。彼の選択はーー?

風景にアジアとアメリカが混ざり合う近未来SFの金字塔。フィルム・ノワール(犯罪映画)の手法をSFに転用した独特の暗い色調や、アジアの要素を取り入れた街並みは、現在も大きな影響を映画・小説・ゲーム・マンガなど各分野に与え続けている。監督は『エイリアン』のリドリー・スコット、原作はこちらも多くの後進に影響を与えたフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』である。9/6にIMAXで劇場再公開されるようなので、大迫力で楽しもう。

『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』

生身の人間、サイボーグ、アンドロイド、そして脳を電脳化した人間が混在する21世紀の日本。公安9課に所属する草薙素子は、電脳を外部からハックし操る指名手配犯「人形使い」を追う過程で起こる様々な事件から、全身を義体化した自分は人間と呼べるのか、自己の根源と向き合っていく…。

日本のSFで世界に最も強い影響力を持つ作品。あの『マトリックス』がモロに影響を受けた。監督の押井守は「ブレードランナーがなければ攻殻機動隊は生まれなかった」と発言している。香港風の都市を舞台に描かれるのは、体をサイボーグ化してしまった人々の葛藤。自分は人なのか、機械なのか。凄まじい想像力を持って描かれたSF超大作。

『ゴースト・イン・ザ・シェル』

人々が自らの体をサイボーグ化するようになった近未来。公安9課に所属する草薙素子は、事件を追う最中に、自身の記憶が操作されていることに気付く。やがて記憶を取り戻していく素子は、自身の中に眠る驚くべき過去を知る。

『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』をハリウッドでリメイクした作品。主人公はスカーレット・ヨハンソンが演じる。流石にハリウッドだけあって風景に力が入っていて、それだけでも見る価値あり。ビートたけしが公安9課のリーダーとして出演している。アニメ版よりもテーマが分かりやすくなっているため(アンドロイドと人間の境界を巡る話から、一人の女性のルーツをめぐる話にサイズダウンしている)、かなり見やすい作品

『ベイマックス』

未来都市・サンフランソウキョウに住む天才科学少年・ヒロ ハマダは、兄が作ったケアロボット「ベイマックス」に刺激を受け、大学への進学を目指す。しかし大学入学へ向けたアピールのために制作したロボットが、とんでもない事件を引き起こすことに…?

舞台となるサンフランソウキョウは、サンフランシスコと東京を混ぜ合わせた街で、どこかにありそうでどこにもない景色が描き出されている。1:18~あたりに注目。日本人にしか分からなさそうな、マニアックな日本ネタも多数出てくる(クレヨンしんちゃんのチョコビの恐竜とか、NHKのドーモくんとか)。アクションが多く『ブレードランナー』よりもかなり軽く見ることが出来るので、疲れた日の締めくくりにオススメ

『AKIRA』

2019年、高層ビル群が立ち並ぶネオ東京で、放置されている旧市街(東京)を駆け巡る暴走族のリーダー・金田は、反政府ゲリラが少年を連れ出す場面に出くわす。暴走族のメンバーの一人・鉄雄が少年とぶつかったことをきっかけとして、彼の中に超能力が芽生え始め、少年たちは反政府組織と軍の争いに巻き込まれていくー。

1988年に公開されたアニメ映画で、原作マンガを執筆した大友克洋が監督した。2020年にオリンピックが開催されることを予知していたことでも話題になった作品である。怪しげな未来の東京が素晴らしい。こちらも海外に強い影響を与えていて、スティーヴン・スピルバーグ監督作品『レディ・プレイヤー・ワン』に主人公・金田のバイクがセリフ付きで登場する。

1:00~あたり。日本のアニメーションは世界で大きな存在感を持っていた。ちなみにこの作品にはガンダムも登場する。

『トータル・リコール』

世界大戦によって地表の大半が住めなくなってしまった地球。富裕層はかつてのヨーロッパを、貧困層はかつてのオーストラリアを中心としたコロニーに移住し、人類は存続していた。貧しい労働者・ダグラス(コリン・ファレル)は記憶を買うことで、退屈な日常を忘れようとするが、その最中にトラブルが発生し、突如追われる身となるーー

1990年の名作SF映画『トータル・リコール』の2012年リメイク版で、オーストラリアの街並みが中華街に飲み込まれつつある。恐らく『ブレードランナー』の影響もあるけど、現実世界で躍進する中国への恐怖心も表れている気がする。原作は『ブレードランナー』と同じくフィリップ・K・ディックから「追憶売ります」という短編小説。

『移動都市/モータル・エンジン』

戦争によって文明が破壊された地球。人々は都市を巨大な車輪の上に作り、小さな都市を捕まえ、資源を奪い取ることで生活していた。最も大きな移動都市「ロンドン」は、小さな都市の吸収には限界があることを感じ、地上で暮らしたい人々の都市「シャングオ」を攻撃しようとする。

移動する都市が舞台となるSF映画。完全にヴィジュアル・イメージだけで爆走しているタイプの映画だが、SFの街並み好きにはたまらない一作。細かい部分を気にしないで映像と勢いを楽しむ分には良い映画だ。空中都市VSロンドンは、さながらハウルの動く城VS天空の城ラピュタと言ったところだろうか。

『26世紀青年』

何から何まで普通の男・ジョーは「人類冷凍保存実験」の被験者に選ばれ、コールドスリープの実験台に。1年後に目を覚ます予定だったが、存在をすっかり忘れ去られ、起きた時には2505年になっていた。ジョーが目にした26世紀の地球は、人類がすっかりバカになってしまった未来だった。

こちらも未来都市の街並みが非常に魅力的な映画だけど、実はアジアの要素はあまり出てこない作品だ。SF映画の背景好きの皆様にぜひオススメしたいので、併せて紹介させていただく。これは「IQが低い人ほど子供を多く生む」=「500年経ったら人類はバカばっかりになっている」というめちゃくちゃな前提の映画で、非常にB級色強め。この映画の未来都市は現在よりも発展しているどころか、少し後退すらしており、その発想が面白い。 しかしラストシーンまで見れば、これが単なるおバカ映画ではなく、明確に伝えたいメッセージがあることが分かるのだ。油断していたこともあるが、正直ジーンと来てしまった。ぜひ見てほしい。

U-NEXTで見れる!

U-NEXT

『ブレードランナー』『ブレードランナー2049』『ゴースト・イン・ザ・シェル』『移動都市/モータル・エンジン』『26世紀青年』『レディ・プレイヤー1』などはU-NEXTの無料トライアルで視聴可能! 無料トライアルを実行すると…

  1. 31日間、U-NEXT内の見放題作品(13,000本以上)を視聴可能(最新作は都度課金)
  2. DVD・ブルーレイよりも早く配信される最新作、放送中のドラマなどの試聴に使える600ポイントを付与!
  3. 追加料金なしで70誌以上の雑誌が読み放題

『ブレードランナー』『ブレードランナー2049』『ゴースト・イン・ザ・シェル』『移動都市/モータル・エンジン』『26世紀青年』『レディ・プレイヤー1』がU-NEXTで視聴可能(※一部は付与されるポイントを消費します)。


本ページの情報は2020年5月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。


【映画解説】社会を批判する役目に、なぜジョーカーが選ばれた?

バットマンの悪役として知名度のあるジョーカーの誕生秘話を描いた映画『ジョーカー』を解説。社会問題に取り組んだ本作で、彼に与えられた役回りとは?

ジョーカーが大ヒットしている理由

アメコミのヒーローとして絶大な人気を誇るバットマン。その永遠のライバルであるジョーカーを主人公に据えた映画が、『ジョーカー』である。北米では10月公開映画として、史上最高の初動を記録したというのだから、その人気がうかがえる。R指定がかけられている映画では、既に世界No.1の興行収入とのことだ。

さて、この映画、見に行かれた方はわかるだろうが、いわゆるアメコミヒーロー映画ではない。ここから先はネタバレになってしまうので、まだ見られていない方は引き返してほしい。一つだけ言えるのは、いわゆる爆発やアクションが売りの、エンターテイメント作品ではないということだ。

それだけを胸にとどめて、見るか見ないかを決めよう。

※以下ネタバレ ジョーカーに与えられた役目

ジョーカー(字幕版)

ジョーカーに与えられた役目とはなんだったのだろうか。

思うに社会に潜む危うさを、自分自身が脅威となることで世間に伝えることだったのではないだろうか。誰もが共感出来る格差社会の辛い現実から、多くの人が共感できない行動へと、継ぎ目なくつながっていくジョーカーの歩みは、ファンタジーながらもどこか現実的である。

実際にこの映画が現実の思想となって影響を及ぼさないか、心配した人もいたのではないか。筆者は少なくともそう考えた一人だ。つまりそれだけ、社会には格差による不満が蓄積している。誰もがなんとなく気づいていながらも、言い出せずにいるリスクを、ジョーカーは鮮やかに暴いてみせた。 実はジョーカーがピエロを模したキャラクターだったことが、彼にこの役割を与えたのではないかと思っている。

Jokerの意味

英和辞典にはジョーカーの意味として次のものが記されている。

冗談を言う人、おどけもの、やつ、取るに足らない人、ジョーカー 引用:weblio英和辞典・和英辞典

Joke(冗談)をいう人だからJokerというわけだ。社会にとって取るに足らない人というニュアンスも、格差社会の下層に位置するアーサーと重なる。 そしてトランプのジョーカーの意味もある。そういえば、ランプのジョーカーにはピエロの絵が描かれている。どうしてだろうか。

トランプのジョーカー

f:id:NIGHTCAP:20200501000019j:plain

トランプのジョーカーは、王に唯一勝てる存在である。英語でJokerは「切り札」を意味することもある。どうしてピエロが王に勝てるのか。ピエロの原型は、宮廷道化師(中世ヨーロッパに王や貴族に雇われて彼らを楽しませていたエンターテイナー)である。 彼らは文学作品において、時に重要な役割を与えられる。シェイクスピアの有名な劇『リア王』では、王に対して深い洞察に基づいた助言を行う人物として描かれている。こういった役割が与えられた理由は、宮廷道化師たちに自由な発言が認められていたからだ。 愚者(=The Fool)とも呼ばれるジョーカーたちは、時に王を批判し、その自由な働きで世の中を正してきた。

当時は王様に逆らえば殺されてしまうかもしれない時代です。それができるのはまさに死を恐れない愚か者(The fool)だけですね。道化師も英語で「The fool」と書かれることもあります。 引用:コトバの意味辞典

王にとって唯一、面と向かって批判してくる脅威が道化師だった。だからピエロは王に勝てるのである。 王が絶対的なルールだった中世から数百年。現代では資本主義が王となった。その中で格差を糾弾する愚者として、ジョーカーが選ばれたのではないか。

おわりに

 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 

Joker Movie(@jokermovie)がシェアした投稿 -

ジョーカーという言葉は、彼の役回りにふさわしい。彼が気づかせてくれたことで、少しでも世の中が良くなるように、繋げていかなければ。

世界がバットマンのいないゴッサム・シティになってしまう前に

ジョーカーが軽やかに階段と道徳を駆け下りながら鳴らした警鐘は、当初の予想以上に多くの人の心に届いているようだ。決してハートフルではないヒューマンドラマだからこそ描けたものが、本作にはある。社会にとって劇薬となった『ジョーカー』その成果がどのような形で表れてくるのか、それともこないのか。

ハロウィンで町にジョーカーが溢れた光景に、心臓が縮む思いであった。楽しみなような…恐ろしいような。

バットマン:ダーク・プリンス・チャーミング (ShoPro Books)

バットマン:ダーク・プリンス・チャーミング (ShoPro Books)

バットマン:ダーク・プリンス・チャーミング (ShoPro Books)

 

せっかくなので原作を一冊ご紹介。こちらのダークプリンスチャーミングでは、アリーニという少女がバットマンの元を訪れる。「あなたが私のお父さんなの?」と。さながら映画『ジョーカー』のアーサーのように。待ち受ける衝撃のラスト!大人が読んでも楽しい一冊だ。

U-NEXTU-NEXTでは.『ジョーカー』はじめとして、動画レンタル 30,000 本、見放題動画 140,000 本を配信中!まずは無料のトライアルから始めてみませんか?

------------------------------------------------------------------------
本ページの情報は2020年5月時点のものです。
最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。
-----------------------------------------------------------------------