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【教養】NHK『100分de名著』テキスト 面白い順ランキング

『100分de名著』のテキストを読む

『100分de名著』とはNHK Eテレで2011年より放映されている教養番組である。タイトルの通り25分×4回の番組を見れば、いわゆる「名著」の内容や背景が分かるようになっており、見れば見るほど教養が見につく有益な番組だ。

実はそのテキストが書籍として発売されており、名著が非常に短く、そして分かりやすくまとめられており、下手な教養書よりも格段に面白い。

今回はそんな『100分de名著』のテキストを日常的に読む筆者が、ランキング形式で面白かったテキストを発表していく。順位をつけることはおこがましいとは思いながらも、皆さんが『100分de名著』を通じて様々な知識を得る喜びを感じる一助となれればと思います。

『100分de名著』テキストとブックスの違い

『100分de名著』には白い表紙のテキストと、色のついた表紙のブックスがある。ブックスは完全保存版という位置づけで、テキスト版よりもしっかりとした装丁になっており、ゲストとの対談や関連書籍の読書案内などが追加されている。また「別冊」と銘打たれたものは、テレビ放送されておらず、本のみであることが特徴だ。

7位 鴨長明『方丈記』小林一彦 解説

NHK「100分de名著」ブックス 鴨長明 方丈記

『枕草子』『徒然草』と並ぶ日本三大随筆として、タイトルと冒頭だけは学校で習った方も多いのではないだろうか。しかしその内容を知っている人は意外と少ない。

方丈記とは、京都・下鴨神社の重役の元で生まれながらも、その自由奔放な性格により出世レースから脱落した鴨長明が、郊外に建てた方丈という小さな家(およそ四畳半の広さ)で暮らしていた際に書かれた本である。主に世の中のことや方丈での暮らしの中で考えたことを書いていて、現代風に言えばエッセイだ。

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鴨長明を描いた作品、出世競争から脱落したら人は空を眺める(菊池容斎画、明治時代)

小さな四畳半の家に収まる程度の家具しか持たない暮らしは、さながら現代のミニマリストである。鴨長明は、和歌では優れた才能を見せるも手柄を横取りされ、神社勤めでは勤務態度が悪くて追い出され、誰も方丈についてきてくれなかったことに文句を言っていたりするなど、現代人の共感ポイント盛りだくさんの人間臭い人だ。平安時代でも出世競争はつらかった。800年前の暮らしも今とそんなに変わらないのだ。

長明のミニマルで風流な生き方と、現代に通ずるまなざしは、単なる教養以上の楽しみを皆さんに与えてくれるだろう。 

6位パスカル『パンセ』鹿島茂 解説

NHK「100分de名著」ブックス パスカル パンセ

「人間は考える葦である」で有名なパスカルの名著。正直前半は「人間の生きる辛さ」を滔々と描いており、サラリーマンとして生きる身としてはかなり厳しい内容で読んでいてつらいのだが、後半の「なぜパスカルはパンセを書いたのか」という種明かしから内容が急速にドライブしていく。一貫性を見出しがたい「パンセ」の内容が、最後の種明かしによって一本の線のようにつながっていく流れが非常に面白い(こんな構造の教養書あるのか!)。

そして最後に「生物と無生物のあいだ」などのベストセラーを著した分子生物学者の福岡伸一氏による寄稿文が掲載されているのだが、これがまことに名文。現代社会の矛盾とパスカルやデカルト、そして分子生物学まで広がっていく一節は、ここだけ切り取って町中に配りたくなってしまう。

5位 別冊『集中講義 大乗仏教』佐々木閑 解説

別冊100分de名著 集中講義 大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した (教養・文化シリーズ)

NHKが出版したとは思えないサブタイトル『大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した』、もうこの時点で最高。お経って何気なく読んでるけど、もちろん一文ごとに伝えたいことがあるわけで。

そういえばブッダの教えを伝えるはずのお経が何でこんなにあるんだろう。そういえば般若心教で急に「ギャーテーギャーテーハーラーギャーテー」って言いだすところなんだろう。そんな疑問に答える一冊。他宗派を貶めないよう、最大限の配慮をもって書かれているものの、恐らく仏教界からは批判が来ていてもおかしくない一冊。

特に華厳経のくだりなど、仏教界の裏話を話してしまっているのでは!? お経を表から読むだけでなく、裏から深く読んでいく名作 

4位 カール・マルクス『資本論』斎藤幸平 解説

カール・マルクス『資本論』 2021年12月 (NHK100分de名著)

いわゆる共産主義の根源となった一冊であるため、何となく「キケン」なイメージがある『資本論』。本著をその誤解から解き放つべく、ベストセラー『人新世の「資本論」』の著者である斎藤 幸平が解説。

なぜ人を幸せにするはずの資本主義が、自殺や過労死を生んでしまうのか。どうして図書館や体育館は無くなり、みんなが集う公園には商業施設が乱立するのか。民営化って本当にいいことなのか。

私たちは資本主義の中にいるからこそ、そのメリットもデメリットも見えなくなってしまっている。『資本論』が提示する他の価値観との比較の中で、共産主義だけでなく、資本主義の輪郭をも明らかにする一冊。1%の富裕層に富が集中する今こそ、読んでほしい。 

3位 アレクシエーヴィチ「戦争は女の顔をしていない」沼野恭子 解説

アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』 2021年8月 (NHK100分de名著)

『戦争は女の顔をしていない』は第二次世界大戦下のソ連軍の女性たちにインタビューして得られた証言から作られた本だ。当時ソビエト連邦では看護や郵便、炊事などで多くの女性が戦場に向かい、また武器を手に取り戦った。そんな彼女たちの声に焦点を当てることで、教科書の記述からでは見えてこない戦争のリアルを感じられるのが、本書の特徴だ。

本書で初めに紹介されるマリヤは、「七十五人を殺害し狙撃兵として十一回表彰を受けた」女性兵士だが、しかし彼女の語りはさながら「ありふれた少女」のそれである。僕らと同じように学校を出たらどんな仕事をしようかとか、どこかで素敵な出会いがないかなとか、そんな風に思っていた少女が、ある日から戦争の当事者となってしまうのだ。

そんな女性兵士たちの語りや、彼女たちを取り巻く男性たちのふるまいが記録された本書は、ジェンダー論を学ぶ者たちにとって重要な一冊といえるだろう。作者のアレクシエーヴィチはこの手法により後にノーベル文学賞を受賞している。この名作をぜひ手に取ってみてほしい。 

なお本書は原著も読みやすい文体で書かれており、またインタビューは難しい戦争の経緯や歴史ではなく、彼女たちが戦場で感じた想いを中心に描かれている。非常に取り組みやすい一冊であるため、ぜひ挑戦してみてほしい。

 

↑『戦争は女の顔をしていない』原著(日本語訳版)

↑『戦争は女の顔をしていない』マンガ版

ライフルに花の冠。戦場でガーゼを身にまといあげた結婚式。一夜だけドレスを着て踊る女性兵士たち。嘘のような戦場のリアルが描かれており、戦争関係の本を手に取ったことが無い方にもオススメ。

2位 フランツ・ファノン「黒い皮膚・白い仮面」小野正嗣 解説

フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』 2021年2月 (NHK100分de名著)

フランツ・ファノンは北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の狭間、カリブ海に浮かぶマルティニーク島で生まれ育った、黒人の精神科医である。彼は黒人差別のただ中から、私たち日本人には想像もつかなかったような実態を明らかにした「黒い皮膚・白い仮面」を発表した。

彼はフランスの植民地であるマルティニーク島に生まれ、自分自身が黒人であるという意識なく生まれ育った。そして第二次世界大戦が起こった青年期に、アフリカ大陸・モロッコで軍に加わる。モロッコで、アフリカ大陸出身の黒人兵士たち「セネガル狙撃兵」と出会ったファノン。自分が白人兵士たちに「セネガル狙撃兵」と誤解され、差別的な態度を受けたことに衝撃を受けた。

なぜファノンは自分が黒人兵士と混同されたことに衝撃を受けたのか、それはファノンがフランスの植民地で生まれ育ったために、自分自身が白人だというアイデンティティを持っていたからだ。彼は当時アフリカのルーツを持ちながらも、フランスの「白人」として「黒人兵士」たちは野蛮人だと思い込み、差別的な目を向けていた。

どうしてこのようなことが起こるのか、植民地における白人中心の教育が、植民地の黒人に「自分が白人である」という意識を育み、海の向こうの同族を差別の対象としてしまうのだ。こうした植民地の黒人が、アフリカの黒人に向けるまなざしやあり方を、ファノンは自嘲的に『黒い皮膚、白い仮面』という言葉で表したのだ。

遠い島国にいる私たちは、差別というものを真に肌で感じることは難しい。白人対黒人という単純な図式では捉えきれないこの構造を、ぜひ読んで知ってほしい。

そして海外のルーツを持ちながら、生まれも育ちも日本である方が多くおられる現在、彼ら・彼女らの持つ複雑なアイデンティティに思いを馳せるきっかけとなるだろう。 

1位 ブルデュー『ディスタンクシオン』岸政彦 解説

ブルデュー『ディスタンクシオン』 2020年12月 (NHK100分de名著)

皆さんには趣味はあるだろうか。好きな歌手は?好きな服は?

実はそれ、「自分で選んでいるようで、周りに選ばされている」というのがこの本。フランスの社会学者・ブルデューが世に提示した『ディスタンクシオン』。

この本では皆さんの「好きな歌手との運命の出会い」を全否定し、人の趣味嗜好がいかに自分自身の属する社会的な階級に影響しているかを明らかにする。自分を作り上げているのは、自分自身ではなかったという発見に衝撃を受ける。社会学者でありながら芥川賞候補になった作品「ビニール傘」を書きあげた小説家である岸政彦が解説する。

普段、学問をしている解説者が多い100分de名著テキストにおいても異彩を放つ、テキストの読みやすさと光る名文。このシリーズを読んでいこうか迷われている方は、ぜひこの一冊から始めていただきたい。星野源も自身のオフィシャルブックで紹介した名紹介本! 

おわりに

既に何十冊と呼んでいる中で、特にオススメしたかったものだけを切り出した形となっていますが、この他にも私が読んでいないものや、皆様にとっての名著などがあることでしょう。私の方でも手広く読んでいきたいと思っているので、ぜひおすすめをコメント頂けると嬉しく思います。本記事で作成した100分de名著のランキングが、皆様の読書週間の補助線となれていれば幸いです。

また、読書をする時間が取れないという方は、番組としての「100分de名著」を楽しむ方法もあります。上記の無料トライアルで与えられるポイントを使って、過去に配信された400回以上中から選んだ番組を見ることが可能ですので、興味のある方はお試しください。

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本ページの情報は2023年1月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにて
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