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【用語解説】範囲の経済と規模の経済とは?その違いについて

同じくコストダウンを狙う『規模の経済』と『範囲の経済』は、ごちゃ混ぜになって覚えてしまった人も多いのでは。ここで一度整理しておこう。

規模の経済

事業規模が大きくなるほど、単位当たりのコストが下がること

これは工場を例に取ってみると分かりやすい。コストには固定費と変動費がある。

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これらの内、後者の固定費は【工場が存在するだけでかかってくる費用】と言えるだろう。例えば工場で製品を一つだけ作る場合と、五つ作る場合を比べれば、規模の経済は分かりやすい。

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固定費が分散され、製品一つ当たりのコストが低く抑えられるのだ。

これはメーカーだけでなく、他の業態でも発生する。例えばコンサルティング会社でも、スキームの開発に大きな人件費がかかることがある。そのスキームを他のコンサルタントに教育することで、多くのクライアントに提案できると考られる。小規模な会社よりも大規模な会社の方が、スキーム開発にかかったコストを分散し、より大きな売り上げをあげられるのだ。

また変動費にも規模の経済が働くことがある。多くの量を仕入れることで、相手にとって重要な取引先となり、安値の仕入れが実現出来るような場合だ。固定費ほどではないが、効果が発揮されるのだ。

規模の不経済

では規模が大きいほど有利なのか。実はそうではない。中小企業の方が製品一つあたりのコストを抑えられるケースもある。例えばこんな場合だ。

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生産ラインが大規模化すると、一つの工場では収まりきらなくなり、複数の工場を稼働させることになる。その場合はそれぞれの工場間や、納入先への物流コストが工場一つだけの場合よりもかかるケースが多い。売上規模が小さくとも大企業より効率の良い経営が出来ている中小企業があるのだ。

例えばホテルだと、多くの場所に事業を展開しており稼働率が低くなってしまっているホテル会社と、高稼働率のホテル一つだけを経営しているホテル会社なら、一か所に専念している会社の方が客一人あたりのコストが低いと言えるだろう。

無計画な大規模化はコストを削減するばかりか、増やすことにも繋がりかねない。これが規模の不経済である。

また共通の固定費を分け合うことが前提のため、M&Aを通じて単に規模を大きくしただけでは効果が発揮されないことにも、留意していただきたい。

範囲の経済

既存の資産を利用して、単位当たりのコストが下げること

規模の経済が同じ製品の生産を大規模化したのに対して、こちらは製品の種類を増やすことで、効率的に利益をあげていくという考え方だ。

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例えば1種類の製品を作るよりも2種類の製品を作っている方が、営業担当はクライアントのニーズに答えられえる可能性があがる。シャツだけを作り、新規顧客獲得を目指し続けるよりも、新たに帽子を作り既存顧客に営業をかけた方が効率が良いのだ。

そしてシャツ工場で帽子を製造する際に追加の機械が必要なければ、固定費は変わらない。2種類の製品を作る工場が、1種類の製品を作る工場と同じ固定費で稼働できるのだ。

既存顧客や工場設備という既にあるものを活かしながら、多様性によって事業を効率化するのが範囲の経済である。これは無駄になっているものを活かすことでも実現できる。

ヤマザキ ランチパック たまご(Egg)×20個セット 山崎製パン横浜工場製造品

例えばヤマザキのヒット商品・ランチパックではパンの耳がカットされている。これを廃棄すれば大きなコストがかかってしまうが、活用すれば新たな商品を生み出すことが出来る。

ヤマザキ ちょいパクラスク (フレンチトースト味)

実際にヤマザキはランチパックのパンの耳をラスクにして販売しており、これも範囲の経済の例と言えるだろう。

また社内に蓄積された情報も資産の一つと言える。例えば中国に工場を持ち、現地の商習慣のノウハウが蓄積された会社が、実際の店舗を中国に出店するような場合には、全くノウハウがない会社が出店するよりも有利と言えるだろう。社内の資産を活かして事業多様化することが、範囲の経済を働かせる。

範囲の不経済

しかし安易な事業の多角化が、企業の業績を悪化させてきた例は多い。上記の工場の例で言えば、本来はシャツを100枚製造できる工場が、帽子の製造開始によってシャツを50枚しか製造できなくなっているとする。

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これで帽子が全く売れなければどうなるだろうか。当然業績は悪化する。

またこの例で言えば製品が2種類しかないが、例えば1,000種類に増えたケースを想定してみよう。恐らく営業担当に1,000種類の製品の魅力を記憶してもらうことは、かなり困難だろう。結果的に売れ線の商品が生まれず、営業活動の効率が悪くなってしまうことがある。こういった例が【範囲の不経済】である。

既にある資産を活用する場合、1から新規事業を展開することよりも経営陣の心理的なハードルが低くなる。その結果、新しく手を出す分野のリサーチをおろそかにしたまま突っ走ってしまい、大きな損失を生むケースもある。

多角化した後の絵が描けていないと上手くいかないため、規模の経済よりも実現が難しいと言えるだろう。

まとめ

【規模の経済】と【範囲の経済】はその名の通り、業務の規模が大きく、範囲が広い場合にコストが削減され、効率よく事業を行うことが出来るようになるという考え方だった。しかし同時に、適用を誤ると不経済に陥ってしまう例もある。単なるイメージだけでなく、どういったケースで有効に働くのかを頭に入れておく必要があるので、ご注意いただきたい。それでは、