Voyage Bibliomaniac

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【RPGの世界が瀬戸内に】犬島精練所美術館と酸化鉄の黒いレンガ

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瀬戸内海に浮かぶ小さな島・犬島。この岡山市唯一の有人島には、RPGに出てきそうな銅の精錬所跡が残されている。一部は犬島精練所美術館という名の新たなアート施設として生まれ変わり、芸術家・柳幸典の作品が展示されている。

目を引く黒いレンガ

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まず目を引くのはこの黒いレンガ。いったいこれはなんでしょう。

これはからみレンガといって、銅鉱石から銅を分離する過程で出てくるスラグを鋳造したもの。スラグは産業廃棄物なので、それを上手い具合に利用しているというわけだ。この黒いレンガの風景が100m以上続いていて、まさにRPGの遺跡に来たような雰囲気がある。

素材は酸化した鉄

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素材は50%が鉄で、残りの多くが石英らしい。地面に落ちてるものを持ち上げてみたが、普通のレンガとは比べ物にならないくらい重く、その代わりに頑丈だ。ちゃんと管理すれば100年後もこの姿のまま残ると言われている。

これはどうやら窯のようだ。加工には向かないようで、アーチの部分だけは普通のレンガが使われていた。確かにこんなデカい鉄の塊をどうやってアーチにしたらいいのかわからないし、苦労が垣間見える。

エコ施設・犬島精練所博物館

ここまで見てきたのが、犬島精練所博物館の外側だ。中には近代化に反対した三島由紀夫をモチーフとした、アーティスト・柳幸典の作品がおかれた展示室、とは名ばかりのほぼダンジョンのような建物がある。暗くて細長く、クネクネした道を進み続けるのだが、実はこの博物館、電気の類を一切使っていないらしい。

温度の調整も電気を使わない。そこで使われるのが、100年以上ここに立っている煙突だ。冬は温室にため込み、からみレンガが保温した暖かい空気を、煙突効果(煙突は下の空気を吸い上げ、上に放出する)で館内に拡散させる。夏は地下の冷たい空気を煙突が吸い上げ、館内に充満させるので涼しいとか。

そして照明も太陽光が鏡を通じて、館内に行き渡るように設計されている。これが男心をくすぐるワクワク感なのだが、なかなか説明が難しい。窓もないのに明るい館内に衝撃を受けることは間違いないので、調べずに訪れてほしい。

海に沈んだレンガを再利用

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この犬島精練所美術館を含めた瀬戸内国際芸術祭というプロジェクトは、地域とのつながりを重視したアート作品を生み出してきた。だからこそエコロジーな建物がこうして建設されたのだ。犬島精練所美術館は建物自体が作品と言えるのだが、外にあるからみレンガと同じ素材で作られている。

実はこれ、外のものを持ってきたわけではなく、海に沈んでいた1万7000個のレンガを引き上げ、再利用したものだそう。凄まじい労力が裂かれた結果、地域の人にも愛される美術館となった。1919年の精錬所閉業から100年近く海に放置されても、これだけ綺麗なまま残るからみレンガは、素材としてかなり可能性がありそうだ。

ちなみにこのトイレも電気は不使用なので、屋根の隙間から太陽光が注ぎ込んでいる。そのためか個室が個室になっていなかったのが面白かった。

おばあちゃんが解説

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外に出ると立派な煙突が迎えてくれる。

これはどのブログにも書いてあるので、僕だけに訪れた珍事じゃないようだけど、犬島精練所美術館の出口には地元のおばあちゃんが待ち構えていて、この犬島精練所美術館について語ってくれる。すごく話は長いから、急いでいる場合は切り上げないといけないのだけど、強い方言と軽快な語り口に惹きつけられた。

今回この記事に書いている内容は、おばあちゃんから聞いたことをネットで裏取りしたものだ。ありがとうおばあちゃん。

美術館の後は精練所跡を巡る

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銅の精錬所の一部は美術館となったが、その大部分は近代化産業遺産という形で保存されている。といっても6本ある煙突のうち、半分くらいは今にも崩れそうで、歩道にはレンガが散らばっていてめちゃくちゃ怖い。廃墟フェチにもオススメ出来る施設なわけで、軍艦島のように内部まで行けなくなる前に行っておいてほしい。

10年間だけ稼働した

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このエントツが一番ヤバかった。どうして立っているのかわからないそり具合。絶妙なバランスが歴史を今に伝えている。

実はこの精練所、1909年から1919年までの10年間しか使われていないらしい。その10年で銅の値段が大幅に値下がりし、大量に訪れた労働者も島の外へ帰っていったとか。稼働期間がわずかだからこそ施設の摩耗が少なく済み、当時の形の大部分が残っているので、僕のような建物好きからしたらありがたい話だ。

ラストは発電所跡

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この犬島精練所跡を舞台にした巨大なアート×遺産もここで最後。6本の内の最後の煙突が、発電所の跡地で僕らを待っている。ただでさえ静かな犬島の中でもここは特別で、当時の役割を超えてなんだか聖堂のようだ。少し遠いので飛ばしてしまう人もいるようだけど、僕はここに来てよかったなと思った。

営業日・アクセス

定休日は3月1日〜11月30日なら火曜日、12月1日〜2月末日なら火曜日から木曜日だそう。祝日の場合はその日を開館日として、翌日休館となるので注意。

開館時間は10:00 〜 16:30だけど、入館は16:00まで。

犬島に行く方法は、岡山の宝伝港からが一番簡単で、10分で着く。本数も一時間に一本くらいはある。それ以外だと瀬戸内国際芸術祭の舞台になっている直島(宮浦港)からは55分、豊島(家浦港)からは25分で着くけど、一日3往復しかしていないので注意。

宿泊施設

4つの宿泊施設があるが、どれも団体向けのようだ。

施設の所要時間

おばあさんの話を聴かなければ1時間強で回れるはず。他にもたくさんのアート作品が犬島にはあることと、船の本数が少ないことから、計画はしっかりと立てたい。でも犬島の最大の魅力はゆっくりと流れている時間なので、ゆとりは大切に。

おわりに

犬島精練所跡は当時の人々の苦労や誇りを感じる立派な建物だった。瀬戸内国際芸術祭の中でも、直島・豊島に埋もれて比較的注目を集めていないような気がする。船の本数も少なくて大変だけど、ここは絶対に行ってほしい。島が小さい分、他の2島以上のゆるさがあって、ハマる人も多い島だと思う。それでは。