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役割を失った安藤忠雄『風の教会』 現在の姿を訪ねる

教会、というとどんなものを思い浮かべるだろう。大きな木の扉を開けると重厚な椅子が並べられている。椅子の上にはステンドグラスから虹色の光が降り注ぎ、荘厳なパイプオルガンの音色が響く。視線を挙げると十字架と茨の冠が、主の姿を心に投影する。

これが大体の教会のイメージだと思う。じゃあモダニズムの教会は?コンクリート打ちっぱなしで、調度品が鉄製の教会を想像できるだろうか。今回は六甲山にあるモダニズムの様式で作られた結婚式場、『風の教会』を紹介したい。

風の教会を訪ねて

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現在、最も有名な日本人のモダニズム建築家である安藤忠雄が、六甲オリエンタルホテルの結婚式場として1986年に設計したのが、『風の教会』だ。西洋的な教会の形を、直方体で再構成したようなミニマルな外観で、ちゃんと鐘までついている。

すりガラスのアプローチ

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教会内部までのアプローチには、すりガラスが使われている。簡素ながらもシックな玄昌石の床に、2007年に閉鎖した六甲オリエンタルホテルを思う。現在は風の教会を残すのみで、完全な更地となり再開発が進んでいる。ぽつんと取り残され本来の使途を失った『風の教会』は、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2018」の会場として生まれ変わった。

ロンドン在住芸術家のアート作品

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本来なら整然と並べられていたであろう椅子が、一カ所に立てかけられ、ひとつの彫刻と化している。そしてその中央上にあるスピーカーも、元々ここにあったオルガンのためのもの。そして会場内には4つの映像が投影され、それぞれが異なる筋で展開していく。

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この作品はロンドン在住の芸術家・さわひらきによるもの。付けられたタイトルは「Absent」(=不在)で、まさに役割を失った風の教会のためのアート作品と言えるだろう。

本来は影として地面に浮かび上がるはずだった十字架が、作品によって隠れてしまっているのは、少しもったいなかった。結婚式場としての機能を完全に失ってしまっているので、仕方ないのかもしれないが、整然と並んだ椅子を見てみたい。

ミニマルな表現

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これは水をためておける鉢で、絶妙にミニマルなデザインだった。いわゆる聖水の類をいれるやつだったら、入り口にあるものだと思うのだけど、これはどういう意味があるのだろう。ここは宗教施設ではなく結婚式場らしいから余計にわからない。誰か教えてほしい。

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このレンズはさわひらきのアート作品で、空を翔ける鳥の映像が投影されていた。

更地となった六甲オリエンタルホテル

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六甲オリエンタルホテル跡地は工事現場となっていたが「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2018」はそこも会場として使うしたたかさを備えていた。画像はアート×土木ユニット「大木土木とミツヤ電機」による『おしゃまなユンボ』と名付けられた作品で、ユンボとはパワーショベルのこと。なんだか機械をそのまま生物化するピクサー的な発想で、かわいい。

アクセス&開場時間

11月25日(日)までの限定公開で、10:00~16:50まで開場(受付終了は16:30)。

入館料は4歳以上で500円一律。六甲山にはこの他にも数多くのアート作品や施設があるが、全てを回れる鑑賞券は中学生以上が2,000円で4歳から小学生までが1,000円となっている。

六甲ケーブル山上駅から徒歩20分で着くが、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2018」期間中はバスも運行している。

おわりに

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工事現場は風景がめちゃくちゃ良かった。遠くには見慣れない妖しい雲が…。

どうやらコンクリート打ちっぱなしは日本の風土に合わないようで、風の教会は大きく傷んでいたそうだ。それを「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015」の際に補修したとか。

本来の役割も、モダニズム建築のもつ機能美も失い、本体というべきホテルも消えた今、それでもこの風の教会があの場所に立っていること。この建物の持つ不思議な運命は、どの方向へ導かれていくのか。風の教会の現在の姿が、見られるのは今だけだ。それでは。