下鴨の古本市で100円で売られていた本。日本人を小馬鹿にしているとも取れる、セールスを度外視したようなタイトルが目について購入した。様々な日本の英語学習書の引用元となった名著であることを知ったのは、本書を読み終わった後だった。
著者はワシントン大学大学院で、日本近代文学を専攻し明治大学で教鞭を取っていたマーク・ピーターセン。彼が日本語で書いた学習書であり、日英双方に通じるからこそ気づける、微妙なニュアンスの違いについて書いている。
微妙なニュアンスの違い
「冷凍庫に入れる」は put it in the freezer なのに「電子レンジに入れる」だと put it in my microwave oven となる。どういう論理や感覚がこの英語表現を支えているのか。著者が出会ってきた日本人の英語の問題点を糸口に、従来の文法理解から脱落しがちなポイントをユーモア溢れる例文で示しつつ、英語的発想の世界へ読者を誘う。
引用:Amazon
本書において解説されるのは、英語母語話者が前置詞・冠詞・接続詞などを用いるときの、無意識の感覚である。上記の『日本人の英語』解説文を読んでいただきたい。決して日本人が自然に習得できない感覚が、単純な表現の差として表れているのだ。
どういったことが解説されているのか
例えばwill have studiedとwill have been studyingの違いであったり、thereby,hence,so,then,thus,therefore,consequentlyなどがそれぞれどういった感覚で運用されているのか、ということについて書かれている。
私は設立から140年を迎えた歴史ある英文学の学び舎で、英語を学習した。しかしその大学の講義においても、thereforeやtherebyは同様の意味を持つので、文中で連続しないように使い分けていくべきだ、と教えられたのみである。多くの辞書でも同じ意味で掲載されている。母語話者にしかわからない感覚を伝えてくれる『日本人の英語』は、まさに目から鱗の学習書なのだ。
他文化を知る面白さ
マーク・ピーターセンの考えでは、完璧な英語を話すには英語で物を考える感覚を身につけなければならないという。そのため、どういった思考で文が生み出されているのか、ということについて詳しく書かれている。
これが非常に興味深く、アメリカ人のものの捉え方に迫っていくような視点になっている。学習書としてだけでなく、読み物として面白い一冊だと感じた。
中級者以上向けの一冊
出てくる語句や概念は少しレベルが高く、英語の文法をある程度知っている人でないとわかりづらいだろう。Amazonでの評価は高いが、低レートの意見は本書の難しさについて言及されたものが多い。
その他に低評価の要因として、『日本人の英語』が英語学習のための近道ではないという点があった。むしろ困難な道である。しかしその道の先には、英語母語話者に引けを取らない完璧な英語力が待っている。急がば回れ的発想の一冊なのだ。
だからこそ英語を本気で勉強したいと思っている人に、手に取ってほしい参考書である。面白い話がたくさん出てきて飽きないので、堅苦しい本を敬遠している人も読んでみてほしい。それでは。